では、話を戻して共通ESの試みのほうはどうか。
共通ESは、要するに履歴書と自己PRの部分を使いまわすことで、就活生の手間を減らそうという仕組みである。冒頭で四半世紀前の個人的記憶を蘇らせたが、当時の私の前に共通ESと同様の自己PR量産装置があったら、喜んでそれを利用しただろう。書き写しの苦役から逃れられるのだから。
それで浮いたぶんの時間や力をどうするかと考えるに、自分は共通化できない志望動機の作成や企業・業界研究をもっとていねいにする、のではなく、もっとたくさんのマスコミ企業に応募書類を提出しただろう。より多くの数を打って、内定取得の確率を上げないことには不安だからだ。
「OpenES」利用の第1期生である15年3月卒業予定者がどう動いたかは、もう少し経ったら分かることだが、おそらく私同様のパターンも多いはずだ。共通ESでのエントリーは負荷が小さいので、行きたい会社があればとりあえず応募する。
そうした行動を取る利用者がたくさんいたら、どうなるか。そう、また人気企業の人気がますます上がる形で、就職・採用活動の世界が膨張する。
しかし、実際は「膨張」ではなく「変形」程度の影響で終わるかもしれない。なぜなら人気企業のたいていは、もう応募者数の増加を望んでおらず、効率的にいい人材を捕まえる方向へ進んでいるからだ。いたずらに応募者数を増やしても、その中から採用に値する人材を探し出すのが大変になるだけなので、「ナビ離れ」の傾向にある企業も少なくない。ネットを介してよりも、大学内企業説明会の開催やリクルーター制の復活などに力を入れ、リアルの世界で的を絞った学生層に会うことを重視する人気企業が増えている。
そんな中、共通ES経由でこれまで以上に気軽に寄ってくる就活生でも欲しいのは、「不人気企業ばかり」だとしてもおかしくない。ならば、「共通ESにはいい会社がない」となり、利用する就活生も増えないかもしれない。
リクルート出身で『偏差値37なのに就職率9割の大学』の著者、金沢星稜大学進路支援センター長の堀口英則氏がコメントをくれた。
「共通ESは意味がよくわかりません。いわゆる『ガクチカ』でも受ける先によって変わりますから。私は学生たちに、会社の職種ごとの書き分けを指導しています。業務内容が『BtoC』か『BtoB』かでも社員に求める能力は違うので、書き分けが必要です。就活は、相手の要望に合わせて自分を表す力を身につける成長の機会。どこでも使えるESだなんて本末転倒です」
自己PR量産装置が欲しかったなどと口にできない勢いだが、教育的観点からのツッコミもなるほどである。
※1:リクルートキャリア「OpenES エントリーシート・履歴書の新しい仕組み。もっと伝わる自分らしさ」 https://open-es.com/
※2:たとえば早稲田大学キャリアセンターは、「リクナビに採用されたOpenESの『紹介文』について」(2013年12月17日)という文書を掲示し、「早稲田大学の教職員にOpenESの紹介文を依頼することは控えるようにしてください」「くれぐれも慎重に対応するようにしてください」などと呼びかけた。