「親の介護はさまざまな面で働く世代に負担を強いています。親の面倒を見るために妻が仕事を辞めざるをえず、収入の柱の一つを失って家計が苦しくなったり、介護離婚もあります。それこそ一家の大黒柱である夫が介護で仕事を辞めるケースだって少なくないのです。最初のうちは貯蓄を取り崩しながらやりくりしていますが、限度があるでしょう。また、介護疲れで精神的にも追い詰められた末に起きるのが、介護している親や配偶者への虐待です。2011年度に介護家族による虐待は1万8126件報告されていて、このうち40.7%が息子による虐待でしたが、これは氷山の一角でしょう」

このように語るのは介護の現場に詳しい市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰の小竹雅子さんである。

高齢者の介護の負担を国民全体で負うのが介護保険で、そのスタートは00年4月と社会保障制度のなかでも新しい部類に属する。介護保険の被保険者は40歳以上の人。実際には65歳以上の「第1号被保険者」と、40歳から64歳までの「第2号被保険者」とにわかれ、介護保険料の算定方法も両者で異なる。第1号被保険者の場合は各市町村で3年おきに決まる月額保険料の「基準額」に保険料率をかけて算出され、その第1号保険料は各市区町村に納められる。

一方、第2号被保険者は自分が加入している保険団体に健康保険料と合わせて支払う。その第2号保険料を決める保険料率だが、加入している保険者数に応じて各保険者の負担が割り振られた後、保険者ごとに計算される。「保険料率は毎年見直しが行われていて、協会けんぽの場合は09年度1.19%、10年度1.50%、11年度1.51%、12年度1.55%と少しずつですがアップしてきました。年収500万円の人ですと、この間の介護保険の負担増は8987円になります」と家計の見直し相談センターの八ツ井慶子さんはいう。

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図5 介護保険サービス費用の分担の仕組み

そうやって集められた保険料をどのような分担で介護保険サービス費用に回しているのかを示したものが図5だ。全体の1割は利用者の負担で賄われる。そして残り9割の給付費の50%を税金で、21%を第1号保険料、29%を第2号保険料で賄っている。ここで問題なのが、人口比に基づく第1号保険者の負担割合がこれから増えていくことだ。小竹さんは次のようにいう。

「社会保障と税の一体改革を進めていくと、第1号被保険者の月額保険料は12年度の5000円から25年度には8200円へアップしていく見通しです。現在、老齢基礎年金は月6万5000円強が支給上限で、そこから保険料を天引きされていて、それでなくても苦しいというのに、さらにアップしたら暮らしが成り立たなくなってしまいます」

結局のところ、財政事情で税金の割合を増やせないとしたら、現役世代の第2被保険者が負担増をかぶるしかなくなる。しかし、40代、50代も子どもの進学などで物入りの時期に差しかかっていて、その負担は重い。そこで起きている議論が第2号被保険者の対象の拡大で、仮に20歳にまで引き下げると、保険料の収入は1.4倍になるという試算の数字もある。どちらにせよ、現役世代にとっては厳しい状況のようだ。

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