「丸くしたら売れそう」ではなかった
「ただし、矯正しすぎると逆に風は弱くなってしまって、遠くまで届きません。そこでグリル(前カバー)の中心に行くほど矯正の力を弱めれば、風は遠くに届くようになります。中心に行くほど矯正の力を弱めるには、グリルの中心部を前に出してやったほうが効果的になります」
外周部では広がろうとする風を内側へ整え、中心部では風の勢いを保つ。そのために必要だったのが、中心部が前へ膨らんだ球面形状だった。
こうして2018年に発売されたのが「サーキュレーターアイ」シリーズ第1弾の「強力コンパクトサーキュレーター」だ。前面パネルの球面化に加えてモーターも改良した結果、同社調べでは、従来品PCF-M151と比べて風速は約20%向上し、風の到達距離も約50%伸びた。しかも、本体サイズはほぼ変えていない。
「グリルだけが球状で、うしろが角張っているのは、かっこ悪いじゃないですか。だから後ろも球面にしたら、全体がボール状になりました」と、原氏は笑う。このデザインは意匠登録されており、他メーカーが球状の類似商品を販売した場合は法的措置に出ることもあるという。
ここで重要なのは、風を制御する球面グリルが、見た目をおしゃれにするために生まれたわけではないことだ。原氏が説明するように、出発点はあくまで「風をどう真っすぐ飛ばすか」という機能上の問題だった。後部まで丸くしてボール状の外観を整えたのは、その機能形状に外装を合わせた結果だ。
現在ではアイリスオーヤマを象徴するデザインのひとつになったボール型は、最初から存在していたわけではない。売れなかった商品について、まず「何に使う家電なのか」という伝え方を磨き、それでも撤退せず、今度は「どうすれば本来の役割をもっと果たせるか」と機能を磨き続けた。その先に、現在の球面デザインがあったのである。
デザインより機能と価格を優先する
「実際、お客様からは『もう少しおしゃれだったら欲しい』というご意見をいただくこともあります」と、アイリスオーヤマの2022年8月3日付け公式「note」のページにはある。
自社製品がデザイン性に乏しかったことをアイリスオーヤマが認めているようにも受けとれる。デザイン性重視に舵を切ったのだろうか。原氏はこう答えた。
「社内でデザインを問題にしたことは、あまりないかもしれません。それでも最近は、デザイナーがデザインをリファイン(磨き上げる)するようにはしています」
といっても、デザインを優先するようなことは、ほとんどないという。
前編でふれたように、同社の開発コンセプトはSRG(シンプル・リーズナブル・グッド)である。シンプルでリーズナブルを実現した良い商品をつくりあげるために必要でないものは削る「引き算の開発」なのだ。だから、必要以上にデザインに凝ることもしない。原氏は続ける。
「リーズナブルな価格を決めたら、そのなかで実現可能な最高のデザインを実現しています。しかし最優先するのは機能であって、デザインを優先して余計なものを付けるようなことはしません」


