基地問題を争点にせず「県民所得倍増」を掲げた
9月13日に投開票された沖縄県知事選挙は、自民党など6政党推薦の新人、古謝玄太氏が同知事選史上最多得票数となる約42万票を獲得し、3選を目指した現職の玉城デニー氏に14万票以上の大差で当選した。「ゼロ打ち」といわれる、投票締め切り時刻の午後8時ちょうどに当選確実が報じられる圧倒的な勝利だった。米軍基地問題などを背景に、革新系の政党が強い沖縄県で、自民党系の知事の誕生は12年ぶりとなる。一般的に現職有利といわれる首長選で、地元では高い知名度を誇る玉城氏を相手に、古謝氏はなぜ完勝できたのか。今回は、私なりに沖縄県知事選の結果について考えてみたい。
なんといっても、古謝氏の勝因は、基地問題を争点にしなかったことだろう。沖縄の経済振興、県民の生活改善という、古謝陣営の得意分野を愚直に訴えたことが、支持拡大につながったと思う。政権与党の推薦を受けていることも、古謝氏の政策に説得力を持たせることができたのではないか。加えて、告示直前に下地幹郎元衆議院議員が立候補を取りやめ、保守票の一本化が進んだことも大きい。現職有利といわれる首長選で新人が完勝できた構造的な要因はここにもある。逆に基地問題が主要な争点となっていた場合、与党側の候補者としては発言内容が制限されるため、もっと苦戦を強いられた可能性もある。それでも、沖縄県民の経済・生活への関心の高さを思えば、古謝氏当選という選挙結果は変わらなかっただろう。
報道各社の出口調査の年齢別の投票先を見ると、50代以下は古謝氏が多く、60代は半々、70代以上は玉城氏が強いという傾向だった。この調査結果からも日々の生活を切実に心配している現役世代が古謝氏を選んだことがわかる。
読売新聞はさらに踏み込んで、経済政策を重視した人の約7割が古謝氏、基地問題を重視した人の約8割が玉城氏に投票したとはっきり書いていた。
自民党系の候補者が勝てなかった過去3回の知事選は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に賛成か反対かが最大の争点だった。しかし、2023年に辺野古沖の埋め立て工事の設計変更承認をめぐる裁判では、最高裁判決で、承認しない立場を取っていた沖縄県側の敗訴が確定。工事が進められることが決まり、今回の知事選では、基地問題ではなく、経済振興や生活支援が論戦の軸となった。移設容認派の古謝氏も基地問題に多くの時間を取られることがなくなり、国との協調を重視し、県民所得の向上、産業振興、社会保険料の負担軽減をじっくりと主張できたようだ。
古謝氏の公約の中で、特に目立ったのが「県民所得倍増」というキャッチコピーだ。内閣府が発表している「県民経済計算」(令和5年度)によると、沖縄の一人当たり県民所得は231.5万円で全国最下位だ。長年その順位はほぼ固定化している。ちなみに全国トップの東京は636.8万円だから2倍以上の差がついている。古謝氏に多くの県民が期待した理由はここにあると考えられる。
だからこそ、これからスタートする古謝県政はこの県民の期待に応えて結果を出す必要がある。高市内閣もきちんとフォローアップしなければならない。県民にとって、今回の選挙が正しい選択であったと感じてもらえるような政策を期待したい。
一方の玉城氏は現職らしく、連続2期8年の実績、観光産業の好調、独自基金による生活支援、循環型経済などを主張したが、基地問題とのバランスに苦労したようだ。そもそも、玉城氏を支援したオール沖縄は、14年に米軍普天間飛行場の辺野古への移設反対を掲げて結集した政治勢力であり、この問題を大きく取り上げられなかったのは痛手になった。
自民党出身の翁長雄志氏がオール沖縄を立ち上げた当初は、保守・革新の枠を超えて全県から幅広い支持を集めていた。しかし翁長氏の死後、衆議院議員だった玉城氏に知事の座が受け継がれると、支持層は革新系が中心に変わっていった。今回の知事選でも、玉城氏を推薦した国政政党は、共産党と立憲民主党、社民党。国会でも議席が減少傾向にある野党3党だった。
また、玉城陣営が経済振興を主張したとしても、現在の自民党政権とは対立関係にあるため、どうしても説得力に欠ける。知事選期間中も、野党の幹部が何人も沖縄入りしたが、何を言っても絵に描いた餅で、実現の可能性が低い。そして、玉城氏の2期8年で、大きな経済的な進歩がなかったことは、沖縄県民の知るところであり、基地問題以外では票を集めることができなかったようだ。
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