社内の旗振り役はたった1人
ひとつは、ツールの機能的な制約です。導入したAIサービスには自社の独自データを読み込ませて回答させるRAG機能は備わっていました。しかし、読み込めるファイルサイズの上限が10GBまでと決まっており、各社員が自由にRAGを使える状態ではなかったのです。
また、社内データに基づくAIアシスタントを作れたとしても、全社展開できる仕組みではありませんでした。結果、多くの社員にとっては「LLMに質問するだけ」のチャットツールにとどまっていたのです。
もうひとつは、推進体制の不足です。当時、普及活動は実質的に中村氏ほぼ一人で担っていました。
「企画段階では他部署もかかわるのですが、運用フェーズになると、実行部隊は私一人だけ。問い合わせ対応だけで手いっぱいで、説明会を開催する余裕もありませんでした」
転機は、2024年に訪れます。その年の7月、同社が策定した「中期DX戦略〈2024‐2026〉」のなかで、AI活用が位置づけられました。戦略の目標として明示されたのは「データを活かしきる経営」。AIは経営を支える手段として、複数の重点施策のなかに組み込まれていました。
この戦略を実行に移すためには、機能面と体制面の双方で、それまでの環境を改善する必要がありました。
東京支店の先行トライアルで大成功
前述の通り、AIサービスにはRAGに厳しい制約があり、社員一人ひとりが自由に使える状態にはなっていませんでした。そこで同社は、RAG機能に強みを持つ新たなAIサービスへの切り替えを決断します。
「決め手は2つありました。ひとつは、社内の独自データを使ったマイアシスタントを部門別・用途別に作れるRAGの実用性。もうひとつは、テキストだけでなく画像も読み取れるマルチモーダル対応です。前のサービスにはなかったこの機能が、図表を含む技術文書をAIに読み解かせるうえで決定的でした」(中村氏)
この切り替えと並行して、DX経営推進室の人員も増強され、AIを全社展開する体制が整っていきます。
それに先立って、まず東京支店でAIサービスの先行トライアルを実施し、その結果、大きな手応えとなる大ヒット事例が生まれました。

