プチ富裕層と超富裕層とでは投資傾向も正反対だ。小林氏の調査によると、「プチ富裕層は攻めの運用を好み、超富裕層は守りの運用を好む」。プチ富裕層の場合、「拡大」をテーマにしているため、金融資産の構成比を見ると株式の比率が高いという。
「あるプライベートバンクの顧客データを見ると、積極的な方だと65%、保守的な方でも25~45%を株式で保有しています」(小林氏)
一方、超富裕層は……。
「金融資産では債券、主に日本国債の比率が高く、80%は債券で保有しているという人も珍しくありません。不動産の保有比率が高いのも超富裕層の特徴で、マンションなら部屋単位ではなく1棟まるごと買いますね」(小林氏)
国債や不動産の比率が高いということは、それだけ国家や地域経済との結びつきが強いということだ。
「逆にいえば超富裕層は『逃げられない』。だから、この人たちは地域への貢献意識が強いのです」(小林氏)
海外への投資を一切しないわけではないが、超富裕層の事業は国内で収益をあげている場合が多いため、華僑風に海外へ軸足を移す動きにはなりにくい。だが、ルート・アンド・パートナーズ代表取締役の増渕達也氏によると、3.11以降は空気が変わってきたという。
「超富裕層のなかにも、会社を売ってキャッシュ化する人がちらほら出ています。日本における会社経営ということに、リスクを感じ始めているのだと思います」
富裕層の世界も、大きな変革期を迎えているのだ。
船井総合研究所 経営コンサルタント
小林昇太郎
立教大学大学院修了(経営学修士)。2009年、船井総研内に富裕層ビジネス研究会を設立。国内だけでなく東南アジア、香港、中東などからの入会も多く、そこからいくつもの新事業を立ち上げている。著書に『ビリオネアビジネスの極意』。
同志社大学 経済学部教授
橘木俊詔
1943年生まれ。73年米国ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了。仏米英独で研究職、教育職を、日銀、郵政省などの各研究所で研究職を歴任。京都大学教授を経て現職。共著に『日本のお金持ち研究』『新・日本のお金持ち研究』がある。
ルート・アンド・パートナーズ 代表取締役
増渕達也
1992年、東京大学卒業後、電通に入社。2000年退社。02年セブンシーズ・アンド・カンパニーを設立。06年ルート・アンド・パートナーズを設立。富裕層のマーケティングを手がけ、7000人以上の富裕層に会ってきた。
(永井 浩、浮田輝雄=撮影)