あるいは、政府が財政赤字を補填するために、国外で地金を売却している可能性も考えられる。実際、トルコをはじめとする中東諸国やインドなどの新興国に対して、地金を現送していると伝えられている。ともかく、ロシアが真の意味で国力を高めており、それを反映したルーブル高が生じているならば、こうした動きは起きないはずだ。
通貨高の国からの金流出という、一見すると矛盾した現象は、第一次世界大戦期の日本でも生じている。当時、欧州大陸の各国が金本位制度から続々と離脱した一方、日本は米国と歩調を合わせて金本位制度を維持していたため、欧米の投資家が金を購入するために日本に押し寄せた。ゆえに円買いを伴う金流出というパラドクスが生じた。
当時の日本と今のロシアに共通している点を挙げるなら、それは制度設計と実際の経済運営との間で著しいズレが生じているという事実である。制度を維持するなら経済運営を正す必要があるし、経済運営を優先するなら制度を変更する必要があるが、そのいずれの選択も取らずに現状を是認すればパズルが生じ、何れ立ち行かなくなる。
通貨の対外的な価値をどう確保するか、が問われている
ロシアは豊富な石油やガスを持つ世界有数の資源国であるが、そうしたエネルギー以外の貿易収支は、実質的に赤字の国である。要するに、石油やガスで稼いだ外貨で、それ以外のモノを輸入し、経済活動が成り立つ国である。ゆえに、通貨が対外的な信用力を、言い換えれば対外的な価値を持たなければ、経済活動が窮してしまう経済だ。
確かにロシア経済は、主要国からの経済・金融制裁にもかかわらず、新興国との取引に活路を見出したことで維持されている。一種の堅強性を示しているとも言えるが、一方でルーブル高の問題は、ロシア経済が抱える構造的な問題を強く反映している。一見するとパズルだが、それが価値の向上を伴っていない点を理解すれば合点がいく。
円高恐怖症に苛まれてきた日本では、これまで円安はいいことだという言説がまかり通ってきた。しかし、それも価格と価値の問題を混同した見解だ。概して、価値を保ちつつ価格を引き下げることは極めて難しい。一方、価格を引き下げるために通貨の価値を毀損させることは、愚の骨頂そのものだ。この点の理解に乏しい論者が多い。
一見すると、今のルーブル高は管理通貨制度のもとで生じたパズルであるかように見受けられるが、実態としては、ロシアの構造的な問題を反映した現象だ。同時に、日本の構造的な円安と照らし合わせて考えると大きな含意がある。価値の向上を伴わない通貨高の問題は深刻だが、価値の毀損を伴う通貨安の問題も著しく深刻だからだ。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)


