雇用における格差や分断というとき、現在は、その主な対象がいわゆる非正社員である。そして、その半面、正社員内部での、働き方の格差や分断に関する議論はあまり注目されない。また「正社員」という言葉を聞くと、企業のなかで1つの堅固なグループを形成しているような印象がある。でも、実際の正社員は前節の両極の間に存在するのだと考えられる。その意味で、正社員のなかでも区分が存在すると考えるのはそれほど無理なことではない。では、議論が主にいわゆる非正規労働力に集中するなかで、正社員はどの程度区分されているのだろうか。また、その状況に変化はあるのだろうか。
私が関係した幾つかの研究によると、多くの企業で正規労働力に関する内部労働市場が幾つかに区分され、区分ごとに人材管理が行われている傾向が強くなりつつあることが明らかになっている。企業内の労働市場でも「分断」が進んでいる可能性があるのである。
実態を見てみよう。図表1に示した結果は、首都大学東京の西村孝史准教授と私が、5年ほど前に行った調査の結果だが、正社員の雇用区分数を見ると、1区分のみが36.8%を占めるものの、他方で3区分以上に分けている企業も3割程度(16.8%+12.6%)存在する。正社員と非正社員の雇用区分の組み合わせでは、最も多いのは、「正社員1区分×非正社員2区分」だが、それでも13.7%と全体の2割にも満たない。逆に「正社員2区分×非正社員2区分」は10%を超える。
さらに、図表2に見られるように正社員内部の区分の労働条件は、雇用期間の定めのない点では区分を通じて同一だが、その他の条件については、区分間で差が見られる。特に仕事の内容に違いがあり、さらに、賃金の決定基準や育成方法、配置転換の有無や異動の範囲の違いなども見られる。
つまり、こうした結果からは1つの企業内で異なった仕事と異なったキャリアを担う正社員が存在することが確認できる。現在話題に上ることが多い、「限定正社員」という働き方(働かせ方)が、このころからすでに多くの企業で存在していたことが示唆される。
また、独立行政法人労働政策研究研修機構の丁寧な聞き取り研究によると、一般職も含めた広義の限定正社員区分の導入は、業種でいうと金融・保険業に、職種でいうと事務業務、および現業業務に多く見られる。さらに、こうした動きは近年大きく進展し、進展の背景には、企業側に大きく2つの動機があるということがわかった。1つめは、正社員の要員不足に伴い、女性社員の活躍推進のための新たな限定つきキャリアパスの創設、2つめは、無限定正社員区分に属する正社員の異動範囲の限定により、人件費コストを抑え、適切な人件費を実現することである。