王室の周囲に中華系が増えた
現在のタイの政局を語るうえで欠かせない「黄色シャツ」と「赤シャツ」の対立も、この華僑と王族の関係を知ると理解しやすい。
タイ族のルーツは中国の南部にあるとされる。1000年ほど前まで中国南部に暮らしていた人々が南下して、現在のカンボジア人に連なる人々(クメール人)を追い出して、タイ(スコタイ)を作った。
そんなルーツがあるために、タイ人には中華文明に対する憧れがあった。タイの王様は愛人を持つ場合に、中国から来た女性を選ぶことが多かった。王室の経済が中国との間の朝貢貿易に支えられていたために、政治的・経済的な利益を考えてのことだった。このような理由から王室の周辺に中華系の人々が増えた。
中国の皇帝のカラーもタイ王室のカラーも黄色である。タイ王室が黄色を好む理由は、プミポン前国王(ラーマ9世)が月曜日生まれであり、月曜日の色が黄色であるためとされる。
また、仏教において黄色(またはサフラン色)が高貴な色(僧侶の衣など)として扱われるためでもある。
同化政策が社会の分断につながった
この数年、黄色シャツと赤シャツの対立は沈静化したようだが、それでもタイ社会には厳然とした黄色シャツと赤シャツの対立構造がある。
黄色シャツは、バンコク周辺に住む富裕な支配階層がその基盤である。一方、赤シャツの構成員は東北の農民が多い。赤シャツはタクシン元首相を支持しているが、タクシンもまた客家系華人である。実は、黄色シャツも赤シャツも、その指導層は中華系にルーツを持っている。
タイでは、華僑が現地人と直接対立しているわけではない。しかし、華僑の同化政策がタイ社会の分断につながってしまった。タイが華僑に対して同化政策を強要したことは、約100年を経てタイに分断をもたらす原因になった。
日本人が気づくことは少ないが、東南アジアに住む人々は肌感覚でこの事実に気がついている。もちろんベトナム人もその経緯をよく知っている。ベトナム人が華僑を警戒し、サイゴンを占領した際に彼らを追い出した理由の一つが、ここにある。


