亡くなる前日までトイレに通える

在宅緩和ケア医になり、「患者さん本人の好きなようにする」という方針で診ていると、ほとんどの患者さんに共通しているのが、「点滴してくれ」と言わないことと、「トイレに行きたい」と言うことです。特に「トイレに行きたい」というのが気力を奮い立たせる鍵で、「目標は亡くなる前日までトイレに行くこと!」と言うと、ほとんどの患者さんは「そんなことが可能なんだ!」と目を輝かせます。

高齢者がトイレで歩行器を持つ姿
写真=iStock.com/Constantinis
※写真はイメージです

もうひとつ、トイレ問題についてハッとさせられた出来事があります。昨年、僕の愛犬が18歳で亡くなりました。そのとき僕は日本にいなくて看取れなかったのですが、預けていた方が、犬が亡くなるまでの様子を動画におさめておいてくれました。

萬田緑平『死ぬまで生きる』(河出新書)
萬田緑平『死ぬまで生きる』(河出新書)

亡くなる数日前になると、犬は横たわったまま、ずっと動かずに弱い息をしていて、いつ逝ってもおかしくないように見えます。ところが、そんな状態なのにトイレの時だけはよろよろと立って、ちゃんとおしっこをするのです。その様子はまさに人間と同じ。その姿を見て、人間も犬もトイレに行くというのは“本能”と説明してもいいのかもしれない、と思いました。

亡くなる当日は、下顎呼吸に移り、呼吸が止まったかな? と思うとしばらくしてまた吸ったりを繰り返し、優しい言葉をかけてもらいながら、最期の息を鳴き声とともに吐ききって穏やかな寝顔で逝きました。その姿は、人が亡くなる時と全く同じ。人が亡くなる時の動画は見せることができないけれど、犬であれば見せられるので、最近は講演のいちばん最後にその動画を見せて、人はこうやって亡くなるんだよ、ということをお伝えしています。

在宅看護で本当にあったトイレ話

最後に、僕が初めて見たすごいトイレの話をしましょう。ある患者さんのご自宅を初めて訪問したときのことです。患者さんが寝ている部屋に通されると、なんとその部屋のど真ん中に水洗トイレがあったのです。「何これ~⁉」と訊くと、お父さんが水道関係の設計技師で、ご家族の介護のために工事をして部屋まで配管を通し、ベッドからすぐに移動できる位置に水洗トイレを設置したのだそうです。そんなケースは聞いたこともなかったので面白かったですね(笑)。きっと、そこまでしてあげようと家族が思うぐらい、患者さんはトイレに行くことを熱望されたのでしょう。

「トイレに行きたい」という思いはどこまでが本能なのか、そうでないのかはわかりません。いずれにしても、患者さん本人が望み、ご家族もそうさせたいのなら、身体的には辛いかもしれないけれど、「トイレに行くことが生きるためのトレーニングなのだ」と理解して頑張ってほしいですね。

医師の萬田緑平氏、2026年6月、群馬県前橋市の萬田診療所にて
撮影=プレジデントオンライン編集部
医師の萬田緑平氏、2026年6月、群馬県前橋市の萬田診療所にて
(取材・構成=浜野雪江)
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