「おむつにしたら」と言ってはいけない

だから僕は緩和ケア医になってからは、患者さんの家族や看護師に「おむつにしようねって勧めちゃダメだよ」と言っています。「おむつにしたら?」という言葉は患者さんにとって、「そろそろ生きるのを諦めたら?」というのと同義語であり、「トイレに行きたい」というのは「私は生きている!」という叫びかもしれないのですから。

ほぼ寝たきりだったり、思うように動けない人にとって、起き上がってトイレに行くのは、とても辛くて苦しいことのはずです。それでも「トイレに連れてってくれ」と言う理由には、身体的な欲求もあると思います。

トイレ
写真=iStock.com/Toru Kimura
※写真はイメージです

男性が残尿に悩まされるワケ

男性は高齢になってくるとみなさん、残尿に悩まされます。残尿とは、排尿後に膀胱内に尿が残っている状態です。原因はさまざまですが、加齢に伴う男性ホルモンのバランスの変化により前立腺が肥大してくると、だんだん尿道が狭くなってくるのが一般的です。

たとえば50歳までなら、立った姿勢でおしっこをすればスッキリして残尿はゼロですが、便座に座ってすると残尿が30ml、寝たままおむつに排尿すれば、下腹に力が入らないので、たぶん残尿が100mlぐらいあるんじゃないでしょうか。臨床基準では残尿50ml以下が正常、日常診察では100ml以下ならOKとされることが多いのですが……。

80歳にもなると、一定の割合の人は立っていれば残尿が200ml、座っていれば300mlほどで、寝ていたらさらに多い量が溜まる。要するに、一度排尿してもまた膀胱がすぐにパンパンになってしまうような状態になります。だから健康な人でも夜中に何度もトイレに起きたりするわけです。ちなみに女性の場合も、男性ほどではないけれど、加齢によって膀胱のしなやかさや弾力性が弱まり、頻尿になったり残尿が出てきたりします。

トイレに歩いていけるうちは…

そして、100歳近くの患者さんになると、1時間おきに起きてトイレに歩くという人もいます。「それが辛いんだ~」と言うけれど、「じゃあ、尿カテーテルにしましょうか?」と訊くと、ほとんどの人は嫌がります。そして、そういう人に尿カテーテルを入れると、トイレに歩かなくて済むようになる代わりに、あっという間に弱っていってすーっと逝ってしまうのです。

なぜなら、尿カテーテルを入れれば残尿に苦労せずに楽にはなるけれど、トイレに行く必要がなくなり歩けなくなるからです。歩けなくなると生きる気力もなくなり、酸素をあまり必要としなくなるため呼吸も弱くなります。呼吸筋が弱っていくと、やがて自分の痰をゲホンッ! と出すこともできなくなります。

だから、辛くても眠れなくても、頑張って歩いてトイレに行っている人の方が長生きです。僕の著書のタイトル『棺桶まで歩こう』(幻冬舎新書)じゃないけれど、トイレ問題と、「歩いてるうちは死なない」ということは繋がっていて、実はトイレに歩いていっているおかげで生きていられるんです。