「ワイン押し問答」にげんなり
そのあたりから、彼の様子が違ってきた。
赤ワインは飲めないと伝えてあるのに、彼女の席のワイングラスをスッと押しやり、「このワインはなかなかの味だから」と飲むように勧める。
最初は「赤ワインは苦手で」と断っていた彼女も、それを10回以上繰り返されると、さすがに口を付けたふりをするしかなかった。彼からすると「勧めた」だけのつもりかもしれない。だが彼女には、ワインを「強要」されているように感じられた。
グラスを押し戻しては、また寄せられる。その繰り返しで、肉料理以降のディナーの後半は、彼女にとって苦痛以外の何物でもない時間となった。
このあとも彼は数杯のワインを追加注文したから、テーブルクロスの上をワイングラスが行き来する押し問答は、果てしなく続いた。
透けて見えた「モラハラの片鱗」
いつもは優しい彼の表情は一変し、別人のようにニヤリと笑う彼が怪物のように見えて、彼女は怖くなってしまった。
彼から「モラハラ気質」の片鱗を感じたのだ。彼と結婚したら、毎晩アルコールを多量摂取し、傍若無人な振る舞いをするのではないか。結婚後に「モラハラ」や「パワハラ」をする男性なのではないか。自称酒豪だが、実はお酒に強いのではなく、ただお酒に依存しているだけではないのか。
赤ワインを無理に勧められた「アルハラ」(アルコールハラスメント)から、酔った勢いで暴言を吐かれたり、精神的な苦痛を与えられたりする将来の可能性が、透けて見えたのだ。
ディナーの前までは彼との結婚を考えていたのに、彼女は迷わず交際終了を選んだ。年収も高く、実家も資産家。高スペックと呼べる男性だったが、ワインのペアリングをきっかけに見えたのは、彼の酒癖とハラスメント気質だった。
これに目をつぶって結婚してしまったら、近い将来後悔する。彼女はそう確信した。
これほど条件のそろった彼が、40歳過ぎまで結婚できなかったのは、もしかしたらお酒の席で垣間見えるこの気質が理由だったのかもしれない。
女性も経済的に自立できる時代に、いくら好条件だとしても、ハラスメントを受けるとわかっている相手との結婚を選ぶ人はいない。

