アランの言うように、幸福になるには、まず微笑んでみることです。
この言葉を医者の立場から言えば、副交感神経の時間を持てということになるでしょう。ストレス社会で大半の時間を交感神経が刺激された状態で過ごしているわれわれですが、笑うと副交感神経が刺激されて血液循環がよくなり、ナチュラルキラー細胞も増えて免疫力が上がるのです。
笑えば“幸せホルモン”と呼ばれるセロトニンが出てくることも最近の研究で解明されています。しかも、本当の幸福感からの笑いではなく、表面的な笑いマネでもいいのです。笑うという行為そのものがセロトニンを分泌することがわかってきたのです。
末期がんの患者さんでも、笑って暮らしている人のなかには驚くほど余命が延びたり、たとえそうではなくても、最後までその人らしく活き活きと人生を貫く人が多いのはたしかです。
力いっぱい戦うまで負けたと言うな
最後に、アランが『幸福論』で語っているとても大切なことを紹介しておきましょう。それは、「幸福にならねばならない」ということです。つまりアランは、幸福になるのは人として誓わねばならない義務だと強調しているのです。
儒教的な道徳がしみ込んでいる日本では、他人を助けることが徳のあり方だと考えがちですが、アランは、まず「自分の幸福を欲しなければならない」「幸福は徳である」と言います。そして、「(あなたが)幸福になることはまた、他人に対する義務でもあるのだ」とも書いています。「人に幸福を与えるためには自分自身のうちに幸福をもっていなければならない」と言うのです。あなたが幸せになれば、周りも幸せにすることができるというのです。とても素敵で大切な考え方だと思いませんか。
「幸福になるのは、いつだってむずかしいこと」ではあるが、「しかし力いっぱい戦ったあとでなければ負けたと言うな。これはおそらく至上命令である。幸福になろうと欲しなければ、絶対幸福になれない」と、アランは結んでいます。
僕はアランに出遇ったことで、自分が随分変わった気がします。ふりかえってみると、アランが道を示してくれたというふうに思えるのです。
ふと開いたページに気に入った言葉を見つけ、それに線を引いたり自分なりの書き込みをしていけば、ちょっとした自分流の「生き方」本にすることができる。そういう読み方ができるのも、『幸福論』の魅力だと思っています。
※出典:『幸福論』(神谷幹夫訳、岩波文庫)