市政で注目を集める「家賃凍結」の攻防

マムダニが掲げた政策は、きわめて具体的だ。市営食料品店の設置、保育の無償化、公営バスの高速化と無償化などだ。どれも、抽象的なイデオロギーではなく、インフレでニューヨーカーの暮らしを圧迫している生活コストを下げるための政策である。

2026年1月1日に市長に就任したのち、マムダニの政策はすぐに実行段階に入った。本稿執筆時点の6月上旬に、もっとも注目されているのは家賃凍結をめぐる攻防だ。

ニューヨーク市には中低所得者層の賃貸住宅を確保するために「家賃安定化(Rent Stabilization)」制度という法的規制があり、対象となる物件は市のガイドライン委員会の決定にそって賃上げ率が制限されている。この運用を強化しようとしているのだ。

まず5月に市の家賃ガイドライン委員会は、1年契約では0〜2%、2年契約では0〜4%という、極めて低い家賃上昇率の暫定値を採択した。つまり、6月下旬の最終決定で、家賃の完全凍結もありうる数字が示されたのだ(ただし、不動産業界や家主団体は、修繕費や保険料の高騰を理由に強く反発しており、予断は許さない)。

住宅、保育、食料、交通を〈コモン〉へ

手ごろな公営住宅の供給を増やす「攻め」の政策もマムダニは進めている。5月に発表された「ブロック・バイ・ブロック」計画は、10年で20万戸のこうした住宅(アフォーダブル住宅)を新規に建設するというものだ。さらに既存住宅を修繕して20万戸を確保する。市の資本投資を拡大し、住宅供給を市場任せにしない姿勢が明確に打ち出された。

ニューヨーク市クイーンズ区のホワイティ・フォード・フィールドで開かれた住宅政策に関する記者会見で発言する、ニューヨーク市のゾーラン・マムダニ市長=2026年5月28日
写真=©Michael Brochstein/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ
ニューヨーク市クイーンズ区のホワイティ・フォード・フィールドで開かれた住宅政策に関する記者会見で発言する、ニューヨーク市のゾーラン・マムダニ市長=2026年5月28日

また、公営住宅の建設にかかわる労働者には時給40ドル以上を支払うという。金融で儲ける人たちではなく、「労働者の街ニューヨーク」を取り戻すべく政策がデザインされているのだ。

保育については、2歳児向けの無料プログラムが4つの地域で募集開始となり、年間で最低でも250万円かかっていた子育て世帯の費用を軽減できることになった。市営食料品店についても、イースト・ハーレムに最初の候補地が発表され、任期中に五つの行政区すべてで開設する計画が示されている。

バスの無料化・高速化に関しては、管轄するニューヨーク州交通局(MTA)との調整が始まった。早期実現は、ニューヨークの中心部に住めない中低所得の労働者にとっては悲願でもある。

もちろん、これらの政策は簡単には実現しない。財源の問題は大きい。また、州政府やMTAとの権限配分の問題がある。不動産資本、金融資本、保守メディアからの攻撃もある。さらに、市営食料品店が既存の小規模商店とどう共存するのか、家賃凍結が老朽化した住宅の修繕を妨げないか、といった現実的な課題もある。