【島田】なるほど。

【南】いまのイメージとは全然違うんです。「なぜ坐禅をするのですか」と問われて、道元禅師は「釈尊も、偉大な祖師方も、みんなやっているから、君もやってみたまえ」みたいに答えています。絶対的な何かについて語らないのは、さもありなんですね。

【島田】もう1つ。僕のいう「スピリチュアル・ブッディズム」の源流は、オウム真理教なんです。オウムはヨガとチベット仏教だということになっていますが、一方で麻原彰晃がやろうとしたことはテーラワーダです。彼はネパールに行ってチベット僧に会っているし、スリランカではテーラワーダの僧と対話しています。つまり麻原は、チベット密教とテーラワーダ仏教の統合を考えていました。

【南】麻原の犯罪と思想は、分けて考える必要がありますね。彼の言説を「あれは仏教ではない」と否定することは簡単ですが、それではダメです。仏教のユニークで強力なはずの言葉が弛緩しきったところに現れたのが麻原であり、あれを超える言説を日本の仏教者はいまだに持っていません。それは認めざるをえない。

【島田】事件のとき、どの宗派も「オウムは仏教ではない」といってしまいました。いまの「スピリチュアル・ブッディズム」が修行の結果として悟りを得るというのは、オウムと同じシステムですね。

【南】オウムの評価をめぐり、島田先生が厳しい立場に追い込まれるのをみて、伝統教団の怠慢ぶりを痛感しました。実際に、オウムの信者は永平寺に来ていましたからね。ほかの教団にもスパイのように信者を送り込んでいました。伝統教団は、オウムは仏教だと認めたうえで、それを消化しなくてはいけません。

青森県恐山菩提寺院代 南 直哉
1958年、長野県生まれ。早稲田大学文学部を卒業後、西武百貨店で勤務。84年に曹洞宗・永平寺で出家得度。約20年の修行生活を経て、2005年より恐山へ。福井県霊泉寺住職も務める。著書に『恐山』『自分をみつめる禅問答』『なぜこんなに生きにくいのか』『「正法眼蔵」を読む』『老師と少年』『語る禅僧』、共著に『人は死ぬから生きられる』などがある。
宗教学者 島田裕巳
1953年、東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術センター特任研究員などを歴任。著書に『オウム真理教事件』『小説 日蓮』『神も仏も大好きな日本人』『戒名は、自分で決める』『葬式は、要らない』『日本の10大新宗教』『創価学会』『オウム なぜ宗教はテロリズムを生んだのか』などがある。