「対人関係の仕事は奪われない」はずが…

AIの急速な発展と普及に伴って、「AIに奪われる仕事」が世界中で取り沙汰されている。ChatGPTに「AIに奪われる仕事には、どんなものがありますか?」と聞くと、データ入力などの「事務系の定型業務」が「かなり影響を受けやすい仕事」だと答えた。この原稿だって、AIに書かせれば、一瞬でできあがるのだろう。

こうした風潮をふまえて、巨人軍の親会社・読売新聞は、最近、次のように報じた。

生成AI(人工知能)の飛躍的な進歩によりデスクワークの効率化や大量解雇が相次ぎ、米国では「大卒のホワイトカラーになれば高収入で安定した人生が送れる」という常識が崩れつつある。そうした中で、高収入の技能工「ブルーカラー・ビリオネア(億万長者)」を目指す若者が増えている(「米国 狙え ブルーカラー長者 AI苦手の『手作業』脚光」読売新聞、2026年5月20日朝刊)

AIが代わってくれる、というよりも、AIのほうがはるかに上手にこなしてくれる業務は多い。その反面、対人関係をもとにした仕事、それこそ阿部氏を逮捕した警察官や、長女が電話をかけた児童相談所のカウンセラーなどは、「AIに奪われない仕事」に含まれる可能性が高い、と言われている。

スキップしたのは「人間関係そのもの」

阿部氏の仕事=プロ野球チームの監督もまた、「AIに奪われない仕事」のひとつだったのではないか。よりにもよってその仕事が、AIに奪われたのである。

阿部監督 巨人阿部監督を逮捕、釈放
写真=スポーツ報知/共同通信イメージズ
辞任し、涙ながらに取材に応じる巨人の阿部慎之助前監督=2026年5月26日、東京・大手町の読売新聞東京本社

ただ、AIが奪うのは「仕事」だけなのだろうか。転職して別の業務に従事し、収入を得られるのなら問題は解決するのだろうか。

今回の阿部氏の事件が与えたショックは、ここにある。奪われたのは「巨人軍監督」という仕事(だけ)ではない。生身でしかありえない親子関係であり、親子の葛藤であり、築くまでにかなりの時間と労力を費やした、その過程そのものではないか。AIは時間も労力もスキップできる魔法の道具のように見えがちだが、実は、スキップしたのは人間関係そのものではないか。