「戦国の覇王」の集大成になるはずだった
だが信長は、居城を移すたびにその地区の経済的飛躍に取り組んだ。冷酷な「戦国の覇王」という印象を持たれがちだが、実際には自由競争の促進と、物流の円滑化によって領国を富ませるという強い意思――そんな理念を持っていた人物だと、わかるのである。
安土城の天主と城下は、信長のそうした理念の集大成だった。だからこそ、安土の発展がそのまま維持されれば首都として機能し、その後の日本の歴史に大きな影響を及ぼしたかもしれない、と思えるのだ。
こうしてみると、信長にとって安土城とは単なる拠点ではなく、日本の中心地を自ら創り出すという、壮大な構想の象徴だったと考えられる。安土の地から天下に号令をかけ、国を改める――その夢を、信長は安土の地に賭けた。
しかし、本能寺の変によって夢は志半ばで断たれた。城も焼失した。天主は失われ、城下町も衰退した。
それでもなお、石段や礎石が残る荘厳な安土城址に立つと、「もし信長が生きていたなら」という可能性を感じる。歴史に「if」が禁物なのは承知しているが、未完に終わった夢の先の景色を「見たかった」と、夢想してしまう。
そう思わせる人物は、歴史上でもそう多くはない。信長はその1人だろう。
参考図書
・太田牛一著、中川太古訳『現代語版 信長公記』(新人物文庫、2013年)
・藤田達生『信長革命「安土幕府」の衝撃(角川選書484)』(KADOKAWA/角川学芸出版、2010年)
・木戸雅寿『天下布武の城 安土城』(新泉社、2004年)
・加藤理文、小和田哲男『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』(ワン・パブリッシング、2020年)


