中国はロシア市場が惜しくない
ロシアが外国勢を市場から締め出そうとするなか、中国側は意外なほど冷静だ。
前出のロジウム・グループの分析によれば、中国メーカーがむしろ現地生産を避ける理由が3つあると解説している。
1つ目は、中国は技術の国外流出を警戒しており、国内で休眠中となっている生産ラインをまず優先して稼働させたいから。2つ目は、ロシアに投資すれば戦時経済への加担と見なされ、西側の制裁を招きかねないから。3つ目は、不透明な官僚機構や政治的利権が渦巻き、投資先としてロシアの魅力が乏しいからだという。
実際、国有自動車メーカーの第一汽車(FAW)は2023年、計画していたアフトワズとの協業を、アフトワズが米制裁対象に指定されたことを受けて中止した。
ロシアが挑発に出ても、中国はこの冷淡な姿勢を崩さない。
2024年秋、ロシアが輸入車にかかるスクラップ税を引き上げた際にも、中国は一切動かなかった。
報復関税など対抗手段はいくらでもあったが、あえて沈黙を選んだ。中国が今後どう出るかは依然不明だ、とOSWはみる。
市場から締め出される中国メーカーの本音
中国の投資家はそもそもロシアを、リスクが高く腐敗にまみれた市場とみなしている。付加価値の高い製造工程を持ち込む気などなく、報復すら割に合わない市場に、本腰を入れるはずもない。
こうした投資回避の姿勢を端的に表す代表例が、モスクビッチ3だ。
西側メーカーの撤退後、モスクワ市政府がソ連時代のブランドを復活させて売り出した新型車だが、モスクワ・タイムズによれば、その実態は中国の国有自動車メーカーJAC(江淮汽車)が設計・製造したモデルのリブランド品にすぎない。
モスクワ近郊の工場では、JACから輸入した部品のほぼすべてを現地で組み立てるCKD(完全ノックダウン)方式が採られている。だが現在、モスクビッチ3製造元のモスクビッチ社はJAC側と、さらに関与を薄めるSKD(セミノックダウン)方式への移行についても交渉中だ。SKDとは、ほぼ完成した車体を中国から輸入し、現地での組み付けを最小限にとどめる方式を指す。
現地の付加価値が薄まるため通常は輸入側に不利だが、利幅を高めたいJAC側の意向が働いているとみられる。実現すれば利益の多くは中国側に移行し、ロシア国内に残る付加価値はわずか5〜10%にすぎない。モスクビッチ社側もCKDラインの維持に必要な技術力・資本力を欠いており、抵抗しきれないのが実情だろう。
同紙によると、2025年時点でロシアに自社工場を持つ中国メーカーは長城汽車傘下のハヴァル(Haval)1社のみ。あるビジネスアナリストは、「完全な手詰まりだ」と言う。
「制限なきパートナーシップ」の成れの果て
2022年に高らかに謳われた「制限なきパートナーシップ」。
その実態は、中ロそれぞれが自国産業の利益を守るため、相手を利用しているにすぎない。ロシア自動車市場の混乱は、その構図を鮮明に表している。
国際的な経済制裁によって自国メーカーが壊滅的な打撃を受けたロシアは、比較的庶民に手の届きやすい価格帯で貴重な供給源となっていた中国車を、隠れ関税と国産化規制で締め出しにかかった。自国産業の保護を狙うが、代わりを担える国産車は、どこにもない。
一方、中国はどうか。「友好国」であるはずのロシアに、本格的な生産拠点を構える気配はない。完成車を送り込んで利益だけ得る方が、リスクを負って現地に根を下ろすよりはるかに割がいいからだ。互いに相手の市場を利用し、不都合が生じれば梯子を外す構図が続く。
それがこの「同盟」の本質でもある。こうして利己主義のツケは、最後にはロシアの一般市民たちへと押しつけられる。車の選択肢を奪われ、割高な価格で購入し、故障しても部品が手に入らない。ロシア車の品質が良好かにも疑問符が付く。
追い打ちをかけるように、消費者に新たな苦難が待ち受ける。インベスティングドットコムによると、ロシアは今年、付加価値税(VAT)を現行の20%から22%へ引き上げる予定だ。日本の消費税の2倍を超える。膨らむ財政赤字の穴埋めと、ウクライナ戦争に充てる軍事費の捻出を迫られてのことだ。
保護すべき産業を持たないまま保護主義を貫くロシア。ねじれた政策の負担は、終わりの見えない戦費と共に、消費者に転嫁され続ける。


