だからといって、中立的な立場であるASEAN諸国に対して非ロシア産の石油やガスへのシフトをEUが奨励することは、筋違いもいいところだ。むしろロシア産の石油やガスをASEAN諸国が引き受けなければ、非ロシア産の石油やガスに需要が集中し、価格の上昇に弾みがつく。さらに石炭も使うなとなれば、ASEAN諸国は怒り心頭だ。
米中に挟まれたEUは、自らの国際社会での影響力を高めるために、規制の輸出という手段に打って出た。しかし、その強い政治性に基づく要求は、かえってEUの求心性を低下させてきた。この悪循環は、ウルズラ・フォンデアライエン委員長が就任した2019年以降に強まっている。脱炭素化の働きかけがその最たる例と言えるだろう。
政治性が求心力の低下を招く悪循環
ドナルド・トランプ大統領の下、傍若無人さを強めている米国の求心力は世界的に低下している。相対的に習近平国家主席が率いる中国の求心力が高まったとして、中国は中国で信用ならざる面がある。ASEANもまた米中の狭間に置かれているが、EUが実利を重んじるASEANに適う存在ならば、パートナーとして第三の選択肢になる。
EUもまた、ASEANを含めたアジア太平洋地域への接近を試みている。しかしEUは、ASEANが重視する実利性を持ち得ていない。あくまで“規範”をASEAN側に受け入れさせようとするなら、その外交は失敗するだろう。まだEUと袂を分かった英国の方が、歴史的な経緯からASEANが何を求めているか理解しているのではないか。
この事実は、通貨ユーロが米ドルや人民元に代わる国際性を持てない所以にもなる。ドル不安に伴うドル離れの流れを受けて、確かにユーロの為替レートは強含みである。その意味では“受け皿”になっているが、貿易決済のための通貨としての価値を新興国、とくにASEANの中で高めているかというと、必ずしもそうではない事実がある。
結局、貿易決済で用いる通貨であるからこそ、ASEANは否応なしに米ドルであり人民元を欲している。特に貿易関係が強くないEUの通貨ユーロにASEANが信頼を寄せるためには、EUはASEANを惜しみなくサポートすべきなのに、そうした姿勢は全く見せない。カネは出さずクチばかり出すのがEUの外交の悪しき特徴とも言える。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)


