そもそも石炭火力発電の全廃は、EUが声高に主張していたことだ。脱炭素化の推進もさることながら、それをテコに国際社会で政治的な影響力を行使しようという思惑がEUにはあったと考えられる。とはいえ、石炭火力発電への依存度が高い新興国は一斉に反発。結局のところ、石炭火力発電の存続に含みを持たせる表現で決着となった。

石炭火力発電所
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石炭もまた重要なエネルギー源であるし、かつASEAN諸国にとっては自給できる化石燃料である。火力発電の設備を効率化・近代化すれば、温暖化を考えるうえでの懸念材料である温室効果ガス(GHGs)の排出も、かなり削減することができる。にもかかわらず、EUはASEANを含めた新興国に対し、その全廃を一方的に求めようとした。

EUの外交姿勢に問題点を挙げるとすれば、相手側の事情をあまり与しない点にある。一貫して、EUの理想や理念、あるいは“規範”を相手に受け入れさせようとする傾向が強い。しかし、EU自身はそう考えているのかもしれないが、EUがグローバルに普遍的な価値観を提供しているわけではない。世界各国の価値観は真に多様である。

エネルギーショックに際して優先されるべきは、エネルギーの安定供給に努めることだ。中立外交を基本とするASEAN諸国は、ロシアを含めたあらゆる国から石油やガスを調達できる。代わりに石油やガスを融通してくれるわけでもないのに、自らと対立するロシアからエネルギーを調達しないでほしいというEUの要請に説得力などない。

ロシア産エネルギーを輸入し続けるEU

そもそもEU自体が、ロシアから引き続き石油やガスを輸入している。例えば2025年第4四半期(Q4)時点で、液化天然ガス(LNG)の輸入量のうちの15%がロシア産だし、パイプライン経由の天然ガスの輸入量のうちの18%がロシア産だ。ウクライナ侵攻前の2021年よりはだいぶ減ったが、それでもまだ一定の割合を占めている(図表1)。

【図表1】EUが輸入する原材料の対ロ依存度
出所=欧州委員会

代わりに増やした非ロシア産の石油やガスは、米国や中東、中央アジアなどからやってきている。それでも、完全にロシア産の石油やガスを代替するには至らない。一大需要家でもあるEUがロシアと関係を遮断していなければ、イラン発のエネルギーショックが生じても石油やガスのグローバルな需給はここまで引き締まらなかったろう。

繰り返しとなるが、EUは自らの政治的な理由でロシアとの関係を絶った。そして、脱ロシア化の旗の下に、非ロシア産の石油やガスへのシフトを進めてきた。エネルギーショックの渦中ゆえに延期するかと予想された短期契約分のロシア産LNGの禁輸措置にも踏み切った。EUが自らの意志でそれを断行したことはEUの勝手と言える。