世界人口の約2割を占め、出生率も経済の伸びも著しいイスラム圏。東南アジアから、中東、アフリカまで広がる海外の巨大市場に加え、急増する観光客をターゲットに国内市場も動き出した。そんなイスラムビジネスの最前線をレポートする。
親日家が多い市場をどう攻める
京都市内にある老舗の高級料亭、美濃吉は、臨機応変な対応でハラル・ビジネスの先端をいく企業のひとつだ。外商部マネージャー、八杉よう子氏は中国・北京店での勤務経験があり、海外の顧客に向けて何かできないか、と思案していたときにハラルを思いついた。「懐石では基本的に豚肉は使用しないし、工夫次第ですぐ取り組めるのではないか」とひらめいたのだ。
今年になって予約が入り始め、4月から本格的にお昼の「ハラル御膳」(2625円)と夜のコース(7350円と9000円)を設定した。ラマダン明けの8月には15組の顧客がやってきた。日本企業の接待で来店する中東・東南アジアからのビジネスマンや、家族連れも多いという。牛肉や鶏肉はハラル対応業者から仕入れ、鍋など調理器具もほかとは別にしている。メニューは天ぷらや焼き魚、野菜の炊き合わせなどオーソドックスなものが中心だが、顧客の食べ具合を見て少しずつメニューを改良しているという。1番人気は天ぷらだ。
「しゃぶしゃぶや鍋などコースメニューをもう少し充実させて選択肢を増やしていきたい」(八杉氏)
従来、敬虔なムスリムは来日してもホテルでインスタント食品を食べたり、マレーシア料理やトルコ料理店などに行っていたようだ。「せっかく来日したのに気の毒ですよね。そうしたお客様に『日本料理ってこんなにおいしいんだ。母国で食べるのとは違いますね。日本に来てよかった』といってもらえたらうれしい」と八杉氏。
在日ムスリムは留学生も含めて約18万5000人といわれており、国内のハラル・フードだけで1200億円の市場がある。日本政府観光局が「ムスリム・ツーリズムセミナー」を開催するなど、政府も本腰を入れている。官民挙げてのハラル詣では拍車がかかることこそあれ、昨今の国内・国際情勢に目を向けてみれば、減ることは考えにくい。英国BBCが行った世界好感度調査によると、世界最大のムスリム人口を抱えるインドネシアでは8割近くの人が日本に好感を抱いている。中東にも親日派は非常に多い。土産物店などでハラルマークを目にする機会も増えていくに違いない。だが、市場拡大だけを目論んで飛び込むのは本末転倒といわざるをえない。