「時季指定権」と「時季変更権」の関係
労働者は、年休の発生要件を満たした場合、年休を取得する時期を特定することができ、これを「時季指定権の行使」といいます(「時季」には、季節の指定と具体的な時期の指定の2つの意味が含まれます)。これに対し、会社は、労働者が請求した時季に年休を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に変更することができ、これを「時季変更権」といいます。
なお、平成30年の働き方改革関連法による労働基準法改正により、法定の年休付与日数が10日間以上である労働者に対し、その日数のうち5日間について、年休が付与される基準日から1年以内に、労働者ごとにその時季を指定して付与することが新たに義務づけられました。
時季変更権の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」については、労働者が指定した時季に年休を付与することにより、業務上の支障が生じるおそれがあることが必要です。常に人手不足の状態にあるために、代替要員を確保できないという場合には、年休取得により「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたらず、時季変更権の行使は認められません。
また、時季変更権の行使に際しては、単に業務上の支障が生じるおそれがあるというだけでは不十分であり、人員配置の調整や代替要員の確保など、会社が状況に応じた配慮を行っているかどうかも考慮されます。労働者が長期休暇を希望する場合には、休暇期間中の代替要員の確保など、業務上の支障が生じるおそれが高くなりますので、事前に会社と調整する必要があります。事前に調整することなく、長期休暇の取得を申請した場合には、業務上の支障が生じるかどうかの判断について、会社に一定の裁量が認められる場合があります。
「恒常的な人員不足は拒否の理由にならない」
時事通信社事件(最高裁平成4年6月23日)は、新聞社の専門記者が約4週間の年休取得を指定したのに対し、会社が後半の2週間について時季変更権の行使をした事案です。裁判所は、会社と事前の調整を経ることなく、長期かつ連続の年休を指定した場合には、会社は、時季変更権の行使における業務上の支障が生じるかどうかの判断に際し、一定の裁量を有するとしました。その上で、専門的知識を有する代替要員を確保することが困難であること等から、休暇の後半部分に時季変更権を行使することは適法と判断しました。
東海旅客鉄道事件(東京高裁令和6年2月28日)は、JR東海の従業員(新幹線の乗務員)が会社に対し、事前に申請していた年休について、勤務日の5日前に会社が時季変更権を行使したことが労働契約に反するとして、損害賠償を求めた事案です。
裁判所は、新幹線の運行という業務が社会的に重要であり、代替人員の補充が困難であることや臨時列車の運行の対応の必要性などの理由により、会社が勤務日の5日前に時季変更権を行使したことについて、事業の正常な運営を妨げる事由の存否を判断するのに必要な合理的期間を超えてされたものということはできないと判断しました。
また、裁判所は、使用者が恒常的に人員不足であり、代替要員の確保が困難な状況にある場合には、使用者による時季変更権の行使は許されないとの一般論を示しましたが、本件では、恒常的な人員不足の状態にはないとして、時季変更権の行使を認めました。

