ミステリーの女王とのミステリアスな出会い

戦後、私立探偵などもしていた西村は、作家になりたくて懸賞小説に応募した。特筆すべきは1967年に総理府が「二十一世紀の日本」をテーマに、小説や音楽を募集した時のことである。賞金は破格の500万円。現在なら100倍の価値があるだろう。

審査員は石原慎太郎、宮本百合子、そして「名前は忘れたがフランス文学の専門家」の3人だった。

石原は「主人公が若者で、日本を背負っているような、少し過激な性格が気に入るだろう」、宮本は「逆に、思想を重く見るし、貧しさと戦う人間が好き」なのではないか、フランス文学の専門家は「少し皮肉なストーリーか」と、作戦を立て、主人公は若い能役者にした。

仇役が古い日本を否定する科学者で、その2人の間で悩むヒロインがフランス文学の好きな女性である。舞台はアフリカの砂漠。そうして書いた小説『太陽と砂』がねらい通り入選した。

探偵の帽子と虫眼鏡、書籍の上に数本の紙タバコ
写真=iStock.com/AtlasStudio
※写真はイメージです

西村については、やはり、「女王」の山村美紗との関係に触れないわけにはいかない。

作家タブーで出版社系の週刊誌等は書けなかったが、『噂の眞相』が容赦なくスキャンダルとして取り上げた。西村は1963年に『歪んだ朝』で『オール讀物』推理小説新人賞を受賞したが、その後は書いても書いても売れなかった。

そこへ、京都の女性から、ファンレターが届く。

「西村さんの本を買って読みました。素敵な内容でした。これからも、がんばってください」

山村美紗と書いてある字がきれいなので、西村は美人の女子大生だと思って、京都に会いに行った。現れたのは花柄の傘を差した着物姿の女性で、30歳は過ぎている感じだった。おまけに人妻だったのである。

2人のミステリアスな関係については花房観音の『京都に女王と呼ばれた作家がいた――山村美紗とふたりの男』(西日本出版社)に譲りたい。

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