300本のバラ

美輪によれば、三島は「特に文壇には友だちはいない」と言っていたのに、亡くなったら、雨後の竹の子のように“心の友”が出てきた。有名になったら突然現れる親戚のようなものである。

美輪が日劇で公演中に、三島は300本のバラを抱えて現れた。最後の別れだったのだろう。それとは知らずに美輪は言った。

「なんなの。こんなにたくさん」

それに三島は返した。

「もう、きみの楽屋には来ないからね。いろいろとありがとう。感謝している」

美輪の演じた『黒蜥蜴』への感謝だと美輪は思ったのだった。

佐高信『昭和に挑んだ作家たち』(平凡社新書)
佐高信『昭和に挑んだ作家たち』(平凡社新書)

これから先の分もあった300本のバラに美輪はあわてて、付き人にバケツを借りに行かせ、2杯のバケツにそれを入れた。

「ご冗談ばっかりで、ほんとうにかわいらしい人でしたよ」

そう結論づける美輪は、ノーベル賞をもらいたがった三島に、こんなタンカも投げつけている。

「あんなノーベル賞なんて、何だとお思いになってるの。あれは爆弾つくった人の、罪ほろぼしの賞ですよ。そんな賞もらって何がうれしいんです? 私だったら突き返してやりますよ。人殺しの賞なんて要らねえよ! と」これには三島も「きみは強いねぇ」と苦笑いするばかりだったとか。

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