身体に余計な負担をかけずにパワーを発揮する

私はこれまで、プロ選手や日本代表選手を中心に、さまざまな競技のアスリートのパフォーマンス向上をサポートしてきました。彼らが抱える課題は、多岐にわたります。

・力を込めているのに、十分なパワーを発揮できない
・思いきり地面を蹴っているのに、動き出しが遅い
・動きが安定せず、軸がブレる
・相手に動きを読まれやすく、逆に相手の動きに反応できない
・何度も同じような部位をケガしてしまう

こうした問題の解決に取り組む中で、私はあるひとつの本質に行き着きました。それは、「身体に余計な負担をかけずに、大きなパワーを発揮できる動き方」を身につけることがすべてのカギになるということです。

世の中には多くのトレーニング理論がありますが、どの方法論を見ても、必ずこの原則が根底に存在しています。

つまり、どんな競技でも、どんな状況でも、高いパフォーマンスを発揮するためには「エネルギーを効率よく生み出し、それを適切にパワーに変換すること」が重要になるのです。

私は、この動きの本質を突き詰めた技術を「身体操作」と定義し、追求しています。

プロ競技でも注目される身体操作

近年、プロ競技の世界でも「身体操作」の概念が注目されています。

プレー中には、相手の動きやボールの位置、味方の配置、時間帯やスコアといった複雑な情報を同時に処理しながら、最適な判断をし、それを即座に動作で実行しなければならない場面が繰り返し訪れます。

このとき、身体操作の質が低いと、いかに的確な判断をしていても、それを実行する動作が制限されたり、反応がワンテンポ遅れたりしてしまいます。

この「ほんのわずかな差」が、試合の流れを左右することはめずらしくありません。

サッカー選手
写真=iStock.com/vm
※写真はイメージです

こうした競技スキルと身体操作の影響関係に着目し、身体操作トレーニングを取り入れる指導者が増えてきています。

たとえば、サッカーにはハイプレス(相手がボールを持っているときに積極的にプレッシャーをかけてボールを奪う)という守備的戦術があります。

これを実行しようとすると、走るスピードだけでなく、急減速できる能力が必要になります。急減速できなければ相手に簡単にかわされてしまいますし、そもそも「ブレーキのない車が全速力を出せない」のと同じで、本当のスピードも引き出せません。

急減速は高度な身体操作が要求される動作です。

脚だけで止まろうとすると負荷が大きく、その割に止まるまで時間がかかります。腰を落とさざるを得ないため、次の動作も遅くなって相手への対応が遅れます。

そこでトップレベルの選手は、腕の振りなど上半身からの力をブレーキとして活用し、さらに地面からの反力の方向をうまくコントロールして急減速に協力させることで脚への負担(筋力依存)を減らして、動きの自由度を保持します。

これこそが、身体操作の最たる例です。

止まるという動作ひとつとっても、「どう動くか」によって差が生じ、身体操作が戦術的な競技動作にまで直結することを意味しています。

「身体操作」とは、単に筋肉を鍛えることや柔軟性を高めることにとどまりません。

重力との付き合い方、連動性、繊細な重心コントロール、関節や筋肉などを通じた力学的な作用など、外からは見えにくい要素が、実は動きのキレや強さを決定づけています。

驚くほど速く、強く、しなやかなパフォーマンスの裏には、こうした身体操作の仕組みが隠されているのです。