4.実は合理的な「冨士講」登山スタイル
冨士講では服装にも統一感がある。そして長丁場の歩行を支える合理性に富んでいる。白の行衣を着て、山袴は膝で絞る。手に手甲、足元は地下足袋で「脚絆」をつけ、金剛杖を持つ。陽の下を長く歩くから光を弾く白装束がよく、なるべく露出部分を少なくしている。杖を持ったり水を触ったりするために掌はさらしておける。地下足袋は岩場などで滑りにくく、体の安定を保つ。雨に濡れても重くならず、一晩で乾く。軽妙さにおいては現代の登山靴を凌駕する。博物館の展示に詳細が。
5.立ち入り禁止の「人穴」に入る
富士信仰の聖地「人穴」。ここで冨士講の開祖・長谷川角行が修行をした。奥行90m、幅3m、高さ1.5mの溶岩洞穴だ。立ち入り禁止だが今回は特別に入穴させてもらった。石段を一歩下りるたびに気温が下がっていき、中は震えるほどに寒い。大きなものに包まれている心持ちになり、まるで母親の胎内にいるよう。最奥からさらに細い穴が延びていて、神奈川県の江の島へ通じるという伝説がある。「境内には先達たちの供養碑や登拝記念碑が約230基ある」(人穴浅間神社・土橋政彦宮司さん)。
(須藤靖貴=編集協力 原 貴彦=撮影)