女性上司と男性部下という構図の難しさ

「男性が上で女性が下」という感覚を持っている人々にとって、女性上司と男性部下という構図は、心理的な「座りの悪さ」を感じさせます。その違和感が、「これはパワハラではないか」という過剰な反応や、逆に「女性首相ならこれくらい強くなければ」という過剰な擁護を生む原因となっているのです。

また、「恥をかかせるな」という言葉が女性から発せられると、聞き手は無意識に「プライドの高い女王様的な振る舞い」というステレオタイプと重ねることがあります。男性なら政治的な駆け引きの一環に見えるものが、女性だと「個人的な感情論」として矮小化されやすいのです。

よって、男性首相であればこれほどまでの騒ぎにはならなかったでしょう。しかし、それは「パワハラではないから」ではなく、単に「社会が男性のパワハラに麻痺しているから」に過ぎません。

性別がどうあれ、「恐怖心で人をコントロールしようとする手法」の本質的な有害さは変わりません。今回の件を機に「そもそもリーダーが部下に恐怖を植え付ける手法は、性別にかかわらず現代では通用しない」という議論が進むことが、組織心理学の観点からみて健全な流れだと言えます。

赤沢大臣のような立場の方にとって、上司が男性であれ女性であれ、「恥をかかせるな」というプレッシャーが心身に毒であることに変わりはないのです。

パラハラ認定された事例

ここで、一般企業で実際にあったパワハラ事例を紹介します。

ある大手広告代理店では、社命を賭けた大型コンペを数日後に控えていました。プロジェクトの責任者である部長は、メイン担当者のAさんに対し、周囲に聞こえる大きな声でこう言い放ちました。

「今回のコンペには私の進退がかかっている。もし負けたら、お前が私の顔に泥を塗ったということだ。私に恥をかかせるような真似は、万に一つも許されない」

こちらを指さし非難する男性
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです

そしてAさんが準備した資料に対し、「この数字を突っ込まれたらどうするんだ? なんでこんなに甘いの? なんで?」という問い詰めを深夜まで続けたり、失敗は許されない空気を徹底的に作り上げ、会議や他の社員もいるところで「もしダメだったら、この会社に居場所はないと思え」といったニュアンスを冗談めかした口調で伝えたりして、逃げ場を奪いました。

こうした環境下でAさんは、過度なプレッシャーと上司の顔色を伺うストレスにより、プレゼン当日が近づくにつれ、資料を見ようとするだけで動悸が激しくなりました。上司の「恥をかかせるな」という言葉が耳から離れず、「上司を怒らせないこと」に脳の全リソースが割かれていた感覚もあったそうです。

そして迎えた本番。Aさんは上司の視線を感じた瞬間に頭が真っ白になり、簡単な質問にも答えられません。プレゼン終了後には、上司からの「あんな恥をかかせやがって」という幻聴に襲われ、そのまま会社に戻ることができなくなり、プレゼンの翌日から「会社に行こうとすると吐き気がする」「玄関から一歩も出られない」という状態になって欠勤。病院で「適応障害」と診断され、数カ月の休職後、その上司と同じ空間にいることが耐えられず、退職しました。