医師の“劣悪な労働環境”が放置されている
また、当初は「かっこいい外科医になりたい」「救急で人命救助のためにバリバリ働きたい」と思っていたものの、いざ就職を考える段階で現場の実情が見えてくると、想像以上の劣悪な労働環境に直面し、体力面や健康面への不安から路線変更を余儀なくされたケースや2年間の病院勤務の結果、訴訟リスクの高さや理不尽なクレーム対応に疲弊し、もっと患者と良好な関係を築ける医療がしたいと考えて美容医療を選んだ医師もいるかもしれません。
さらに、女性医師の場合、出産や育児との両立を考えた時、夜間当直や緊急呼び出しのない美容クリニックを選ばざるを得ないという事情もあるでしょう。あるいは、親の介護が必要になった、自分自身が持病を抱えているなど、ライフステージや健康上の理由で、過酷な勤務が物理的に不可能になったケースもあります。
私が医師免許を取得し、就職先を選ぶ立場にあった1999年当時、美容クリニックは今ほど一般的ではなく、そもそも選択肢として認識されていませんでした。また、職場環境などの情報は、インターネットがなかったため、先輩から聞く主観的な話に頼るしかありませんでした。しかし当然ながら、自分の職場に来てもらいたいと思っている人が「うちの職場はひどいよ」などと、来てもらえなくなるようなことを言うはずがありません。
ですから、もし当時から美容クリニックのような魅力的な選択肢が明確に存在し、なおかつ客観的な情報が豊富に得られる環境であったなら、1999年頃もすでに現在とさほど変わらない状況になっていたと想像できます。
「直美医師は医者と言えない」への反論
「直美医師は技術的に未熟で怖くて任せられない」という批判があります。
この議論をする際は、美容クリニックで働き始めたばかりの医師を二つのグループに分けて考える必要があります。一つは2年間の臨床研修を終えてすぐに美容クリニックに入った医師(直美)、もう一つは他の診療科を経験してから美容クリニックに転職してきた医師です。
「直美の医師には医者の常識がない」「何かあった時に適切な対応ができないのではないか」という不安も、この批判の根底にあります。ここで言う「医者の常識」とは、例えば患者の容態が急変した時の初期対応、薬剤の相互作用への注意、感染管理の基本など、医師として当然知っておくべき判断力や対応力を指します。
しかし、他の診療科での経験が美容クリニックで必ずしも有利に働くわけではありません。
そして、他科での経験にも限界があります。
内科や精神科など非外科系の診療科では、縫合などの手技はほとんど経験しません。
また、アナフィラキシーショックのような緊急時の全身管理も、救急医療に携わる診療科や麻酔科などの特定の診療科で実際に遭遇しなければ対応できません。
つまり、その他の診療科にいたからといって、美容クリニックでは役立たない経験も多く、その部分では直美医師とほとんど変わらないのです。

