「そのブラウス素敵ですね」
――初めて出会ったお客様にどう接するべきですか? すばやく相手の意向を把握するコツは?
林 「お客様を、この人は買ってくれるかどうかという目で見ては駄目なんです。自動車なら『修理か新車購入か、それとも中古のお客様かな』などと、素早く見極めようと身構えないこと。
ショールームに来店されたお客様なら『お暑い中お出かけいただいてありがとうございます』と感謝の気持ちで出迎えることが先決です。そして『今日はお休みですか?』などと、お客様に関する四方山話から始めるべきなのです。
人間としてのお客様に関心を抱いて、いろいろお話しする。会話を通じて職業や趣味、生活ぶりがわかってくれば、その人のカーライフも想像できますね。ニーズも把握できて、どの車種をお勧めすればいいかわかる。
その結果、お客様自身が考えていた車種ではなく、『長い目で見れば、こちらのほうがいいのでは』という勧め方もできて、結局、感謝されプロとして信頼されることにもなります」
――お客様とすばやく打ち解けるには、どうすべきですか?
林 「いきなり商品を話題にするのではなく、お客様個人に関心を払うこと。大切なのは、さりげなく褒めることです。誰でもいいところは持っているものなので、本当にいいなと思える点を素早く見つけます。普段から人のいい面を見ようと心掛けていれば必ず見つかります。
たとえば『そのブラウス素敵ですね。お色がいいですね』と、口に出す。テレないで勇気を持ってそういう一声を掛けることが大切です。そこから、いい意味で一歩踏み込んだ関係が始まります」
――ライバル社の競合商品が強い場合はどうすべきですか?
林 「他社の商品の悪口は言いません。その商品も選択肢に入れているお客様にとっては自分を否定された気分になりますからね。自分の商品のよい点を語ればいいのです。その場合、カタログのデータを示して『ここが長所です』などと断定的に説明しても相手はピンときません。 自分も実際に利用してみて、こんなふうに感激しましたよと経験を伝えたほうがいい。説明の押し付けではなく、感性に訴えるほうがわかってもらえますね」
――クロージングを上手にするには?
林 「ここで決めたい、契約を取り付けたいと自分の側だけの都合で考えては駄目です。むしろお客様の重荷を取り除いてあげたいという気持ちで臨むこと。
お客様というのは、ほとんどが非常に迷っています。楽しいはずの買い物が、ときに重荷にさえなってしまう。そこでタイミングを見計らって背中をポンと押してさしあげるのです。結論を出してお客様にホッとしてもらいたい、という気持ちですね。それにはお客様の気持ちを十分に感じ取る共感力が不可欠です。
譬えれば、柔道のように相手の力を利用して呼吸を見計らって技を掛けるのによく似ていますね」