海運大手のマースク、MSC、CMA CGM、ハパックロイドの4社がそろって同海域を含む運輸の予約受付を停止した。主要保険会社も、そろって戦争リスク保険を解約している。ホルムズ海峡はペルシャ湾から外洋へ出る唯一の海上出口であり、船舶の迂回路は存在しない。紅海沿岸とアラビア海側に抜けるパイプラインが2本存在するが、合計でもホルムズ海峡の通常の通過量約2000万バレルには遠く及ばない。

航路が塞がれると同時に、生産拠点自体も攻撃にさらされている。米シンクタンクの大西洋評議会の分析によれば、3月2日、イランのドローンがカタール国営エネルギー会社カタールエナジーのラスラファンLNG施設を直撃した。生産は即座に止まり、欧州の天然ガス指標価格は同日、50%超急騰した。

液化天然ガスタンカーがシンガポール海峡を通過
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同社はわずか2日後に不可抗力(フォースマジュール)を宣言し、供給契約の履行を中断した。仮に紛争が即日終結しても、施設の完全復旧には数週間から数カ月を要する見通しだ。

カタール北部の工業都市ラスラファンにはLNG施設に加え、世界最大の尿素プラントもある。LNGも窒素肥料も、原料は同じ天然ガスだ。ひとつの施設が止まっただけで、エネルギーと肥料の供給網が同時に断たれた。

カタール国営衛星テレビ局のアルジャジーラによると、インドではすでに3カ所の尿素工場が減産を余儀なくされ、バングラデシュでは5カ所中4カ所の肥料工場が操業を停止した。

肥料・食料問題は石油より深刻

肥料問題は食料供給に直結するため、石油よりも厄介とも言える。

石油であれば、安全弁がある。米ビジネス誌のフォーチュンが報じるように、3月11日、国際エネルギー機関(IEA)加盟32カ国は緊急備蓄から4億バレルの放出に全会一致で合意した。だが肥料には、世界に主だった備蓄がない。

米シンクタンクのカーネギー国際平和基金によれば、世界の肥料海上貿易のおよそ3分の1がホルムズ海峡を通る。湾岸諸国は天然ガスからアンモニアを合成して窒素肥料をつくる一大産地であり、リン酸肥料でも世界生産の約20%、石油・天然ガスの副産物で肥料製造に欠かせない硫黄でも世界供給の約25%を送り出している。海峡が閉ざされ、原料から製品まで、肥料の供給網が丸ごと断たれた形だ。

危機対応の現場でも、肥料は後回しにされがちだ。同基金は、肥料は石油より経済的価値が低いと指摘。海峡を強硬突破するとしても、海運会社も護衛艦を出す海軍も、まず石油を選ぶ。一方、G7各国に肥料の戦略備蓄は一切なく、海峡が再開通しても正常化には数週間を要する見通しだ。