肥料の価格はすでに急騰している。アルジャジーラが伝えたエネルギー・商品価格調査機関アーガスのデータによると、中東産の尿素輸出価格は約40%跳ね上がり、1トンあたり700ドル強(約10万5000円強)に達した。前年同期比で約60%高い。モーニングスター社のアナリスト、セス・ゴールドスタイン氏は、窒素肥料で現水準のおよそ2倍、リン酸肥料でも約50%の上昇がありうると見る。

化学肥料をドラム缶に詰める農家
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「25年で初めて」英独農家に肥料届かず

4月には春の作付けシーズンが控えており、残された猶予はわずかだ。

イギリスでもドイツでも、農家は肥料と燃料の確保に追われている。英政治文化週刊誌のニュー・ステイツマンによれば、全国農業者連合(NFU)のトム・ブラッドショー会長は、今の事態は「世界の食料生産における次のインフレサイクルの始まり」だと警告する。

燃料や肥料が手に入っても、価格は最大75%跳ね上がっている。それどころか、業者に問い合わせても価格の見積もりすら出してもらえない日があるという。ディーゼル燃料の調達に25年間あたってきた同氏は、「こんな状況は初めてだ」と語る。4月初旬の期限までに調達のめどが立たなければ、作付けを断念する農家が出かねない。種がまかれなかった畑から、秋に穀物は採れない。

加えて、仮に見積もりが出たとしても、採算が取れるかは別問題だ。欧州のニュース専門放送局ユーロニュースが取材したドイツ・ザクセン=アンハルト州のパウル・ヘンチキ氏は、80ヘクタール(東京ドーム約17個分)の農場を副業で営む。大規模農家のように秋のうちに備蓄する余裕はなく、今の高値で買うほかない。

尿素は1トン550ユーロ(約8万8000円)、石灰硝酸アンモニウムは同370ユーロ(約5万9200円)。ところが、飼料用小麦の売値は1トンわずか168ユーロ(約2万6880円)だ。肥料を買えば、小麦を売っても手元にはほとんど残らない。2〜3カ月もすれば、スーパーの店頭価格にも跳ね返るおそれがある。

「脱ロシア」から始まった誤算

こうしたことから、ホルムズ海峡封鎖の影響は日米のガソリン価格だけでなく、長引けば世界的な食料価格にも及ぶとみられる。

欧州の農業は、なぜここまで海峡の封鎖に脆いのか。答えは、2022年のロシアのウクライナ侵攻を機にEUが踏み切ったエネルギー大転換、その副作用にある。

EU政策を報じる欧州のニュースサイト、ブリュッセル・シグナルによると、ガス価格急騰のあおりで欧州の窒素肥料生産能力は約70%低下し、以来、化学産業界は3700万トンの生産能力と2万人の雇用を失った。新規投資も年270万トンから30万トンへ激減したといい、もはや肥料を欧州が自前でまかなえる状態にはない。