あまり進まなかった肥料の脱ロシア化
かつて欧州連合(EU)は、輸入肥料の3割をロシアに、1割を隣国のベラルーシに依存していた(図表2)。しかしウクライナ侵攻を巡ってEUとロシアの関係が破綻、EUが肥料の脱ロシア化を図ったことで、2022年にはロシアからの輸入額が全体の20%程度に、またベラルーシからの輸入額が1%程度にまで急減することになった。
しかし、その後は横ばいで推移しており、肥料の脱ロシア化はあまり進んでいない。EUは肥料の脱ロシア化を進めるために、2025年7月からロシア産肥料に対する関税を6.5%から14%に引き上げ、さらに3年後までに100%にする措置を発動した。対するロシアは、肥料の輸出先の多角化、特に新興国シフトを進めると明言している。
こうした状況の下で、イラン発のエネルギーショックが発生し、肥料危機が生じた。現実的な観点に立てば、ロシア産肥料に対する関税の引き上げを延期することが望ましい。計画では、2026年半ばまでにトン当たり40から45ユーロの追加関税が課される方針だった。しかし現状に鑑みれば、この措置を発動する余裕などEUにはない。
それでも、EU執行部がロシア産肥料に対する関税の引き上げを進めるならば、各国の国民のEUに対する不満が爆発すること必至である。むしろ関税を元の6.5%に戻すか、撤廃してもいい状況であるが、それではEUが掲げてきた肥料の脱ロシア化の旗を降ろすことにつながりかねないため、14%のまま据え置くのが関の山かもしれない。
ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長らEU執行部は、今回の苦境に際して、果たしてどのような判断を下すのだろうか。EU執行部はこのところ、求心力を内外で急速に低下させている。失政が相次いでいるためだが、EU執行部が今回の肥料危機の対応に関しても政治性を優先する判断を下すなら、その求心力は一段と低下しよう。
それでも脱ロシア化を進めるのか
ウクライナ侵攻を巡りロシアと決定的な対立に陥ったヨーロッパには、business is businessという実利的な視点が欠けている。経済安全保障の名の下に、ロシアとの経済関係までも悪化させなければ、そもそもロシア発のエネルギーショックも限定的だったし、今回のイラン発のエネルギーショックの悪影響もまた軽くて済んだだろう。
つまりロシアとの経済関係を維持していれば、ヨーロッパは中東に過度に接近することもなかったし、中東に接近していたとしても、ロシアからもエネルギーや肥料を十分に調達できたはずだ。ヨーロッパという巨大プレイヤーの需給が安定していれば、肥料のグローバルな需給均衡が大いにガタつく事態を防ぐことにつながったと考えられる。

