産業ボロボロ、電気代は日本の倍

真実はだいぶ違う。

EUが必死で方向転換を図る背景には、これまで鉦や太鼓でGXを鼓舞してきたせいで、産業がボロボロになってしまったという過酷な現実がある。

脱炭素と産業の発達は両立するというテーゼは、疑う余地のないものとして演出されたものの、全く機能しなかった。その結果、今や世界の投資家の目は、EU以外のところに注がれている。

とりわけ悲惨なことになっているのが、GXに一番のめり込んでいたドイツだ。CO2を出さない原発を止めてしまった失策はさておくとしても、石炭・褐炭もフェードアウト中だし、頼りにしていたロシアのガスは遠い彼方。たっぷりあるのは、せっせと増やした3万本の風車と540万枚の太陽光パネルのみだ。

その結果、どうなったかというと、ドイツの電気代は、今、EUで一番高い。

【図表1】EU加盟国の電気代(ユーロ/100kWh)
Eurostatのデータから編集部が作成

どれくらい高いかというと、EU平均が0.28ユーロ(約51円)/kWhなのに対し、ドイツは0.38ユーロ(約70円)/kWh。電力会社やプランにもよるが、日本の目安である31円/kWh(全国家庭電気製品公正取引協議会)と比較すると2.3倍だ。

※筆者註:1ユーロ=183円(2026年3月現在)のレートで換算

大企業への電気代の補助は、“国際競争力の維持”という名目で行われているが、中小企業と家庭の電気料金は補助されていない。ドイツで東京都と同じ量を使えば、現在、円安レートのせいもあるが、計算上では電気代は4万円を優に超える。直近では、イラン紛争の影響で、ガソリン代も急激に上がっており、家庭のエネルギー負担は類ないものになっている。

しかも、原発の代替は再エネでは叶わず、電力逼迫時には石炭・褐炭火力を立ち上げるので、CO2の排出量もEU一。

だから企業は国外へ逃げていく

ただ、高いエネルギーを使って、高い製品を作っても誰も買ってはくれない。だから、エネルギー多消費型の企業は諦めて国外へ逃げ、現在、深刻な産業の空洞化が進行している。逃げられない中小企業は、倒産、あるいは閉店の憂き目に合う。

ドイツの稼ぎ頭であった自動車産業も例外ではない。

ガソリン車とディーゼル車の終焉を宣告され、慣れないEV生産に走ったものの、売れ行きは極度に不調。ポルシェに至っては、25年の営業利益が前年比で9割減と壊滅状態。

一方、EVを強制された国民も、高いドイツのEV車には手が届かず、安い輸入車に流れる。いい加減に脱炭素をやめなければ、全て取り返しのつかないことになる。

そんなわけで、この度のフォン・デア・ライエン氏の原発回帰宣言は、左翼には嫌がられても、産業界や国民には肯定的に受け入れられるだろうと予想された。

そもそもメルツ氏(CDU・キリスト教民主同盟)は、昨年の総選挙の時、「原発の再稼働」を公約に盛り込んでいたのだが、社民党と連立したため、政策協定書には原発の「ゲ」の字も入れられなかったという経緯がある。

しかも、今、ウクライナやイランでの紛争のせいでますますエネルギーの逼迫が懸念され、あれほど原発嫌いだった国民の間にも、もうしばらくは原発が必要だという意見が急激に増えてきた。CDUの中には、元々、原発容認派の議員も多い。