「自分の軸」は変わっていく
ところが、ソーシャルノイズがうるさい現代に生きていると、好きなことに興じているつもりでも、自分の「大切にしたいこと」や「内発的動機」を見失うことがあります。私自身も、本を書きながら自分が本当に書きたいことがよくわからなくなってしまうことがたまにあります。
書きたくて書いているつもりでも、頭の中で「もっとメリットを煽ったほうが売れるんじゃないか」とか「“サボるのが大事”なんて書いたら、企業の人事担当者から嫌われてしまわないだろうか」などと考えてしまうわけです。
もちろん、せっかく本を書くなら売れたほうがいいし、社会の規範に大きく反しないほうがいいかもしれない。
けれども、気づくとその主従が逆転してしまうことがあります。規範を守って、スコアを上げて、周囲から好かれること自体が目的になってしまう。その結果、自分が純粋に書きたいことがよくわからなくなってしまう。こういう力学が働くわけです。
それに、人間は変わります。就職活動の際に自己分析を通して「自分の軸はこれだ!」と確信していた人も、社会人になって3年も経てば、自分の大事なことがまた見えなくなって、モヤモヤしてくるものです。目標を達成して満足したり、挫折を味わったり、さまざまな経験を通して価値観は変容するのです。
職場が変わったり、家族ができたりなど、環境の変化にも影響を受けます。新型コロナウイルスの脅威を経験したことで、働き方や暮らし方の考えが変わってしまったという人も少なくないでしょう。放っておくと、知らないうちに「自分」という生き物は、別の生き物に変身していくのです。
1億総リフレクション不足時代
だからこそ、「自分は昔からやりたいことがハッキリしている」「自分の価値観はとっくに言語化済みだ」と確信している人こそ、静かな時間にリフレクションをすることを「習慣化」してほしいと思うのです。自分自身の内面に起きている小さな変化に目を向けて、言語化する癖をつけていただきたいと思うのです。これが、私が万人におすすめしたい静かな時間の使い方です。
実際に、さまざまな調査データに目を向けると、現代人はリフレクションが圧倒的に足りていません。
たとえば転職経験者1000名を対象にしたある調査では、定期的に自身のキャリアやスキルの振り返りをしている人はわずか17.1%でした(注1)。特に40代は10.8%、50代は4.0%と非常に少なく、中年期に特有の「ミドルエイジ・クライシス(注2)」と呼ばれる不安や焦りの背後で、圧倒的にリフレクションが足りていないことが読み取れます。
若手も同様です。20代の若手ビジネスパーソン1300名を対象にした調査でも、自分の「仕事の価値観」を明確に言語化できている人は13.3%とごくわずかです。
近年、人材の流動性がますます高まり、転職が当たり前になっています。ところが、多くの人たちは「自分のキャリアについては、よく振り返っていない」「仕事の価値観については言語化できない」という結果が出ているのです。
注1:Eight「転職経験者のキャリア形成に関する意識調査」~定期的にキャリアの棚卸しをしているのは転職経験者の2割未満、20代転職経験者の7割がコロナ禍で転職を考えるように~
注2:40代から50代の中年期に多くの人が経験する「中年の危機」と呼ばれる心理的・感情的な状態。人生の折り返し地点で「これでいいのか」という不安や後悔、将来への焦りを感じるもので、身体的・社会的な変化が重なることでアイデンティティが揺らぎやすくなる。

