奥多摩で起きた渓流釣り中の事故
こうしたことから推定されるのは、おそらくクマは通常の登山道といった特定の場所、特定の時間(日中など)に人間がよく来ることを理解し、警戒しているのではないかということだ。
しかし、バリエーションルートなどのように、普段は人間が通らない場所を通ると、クマからしてみれば、人が来ないと思っていたような場所に人が来てしまうことになる。詳しい聞き取りができた丹沢山系の事例では、鈴もつけていた登山者が、通常の登山道ではない尾根を進んでいたところ、子連れのクマに遭遇して襲われたというものがある。
また、奥多摩ではある登山家が山道を走っていて被害に遭っている。人間が歩く速度ならクマのほうも未然に人の存在に気付き、遭遇を避ける余裕もあるが、速い速度で走って接近したことで、クマのほうはその場を立ち去る余裕がなくなってしまったのだ。
速度が速いという点で、マウンテンバイクも同様である。クマが人の接近を予想できない、あるいは人が来ることに対してその場を立ち去るタイミングを逃してしまうようなシチュエーションが事故につながりがちということになる。
他者が行かない場所へあえて行くという意味で、渓流釣りも当てはまる。
2025年に奥多摩で起きた事故では、被害者は鈴をつけていた。しかし、渓流の中は水音があるため鈴の音は伝わりにくい。また、川沿いに風の流れが発生し、渓流釣りでは下流から上流へ進んで行くため、人間の匂いは上流に届きにくくなり、その結果、クマと鉢合わせてしまう。クマが人間を感知できない状況では、事故に遭いやすくなる。
一般的に素早い行動はクマを刺激するが、そうした特定の行動で人間がクマに刺激を与えたことで事故が起きるというよりも、お互いが意図せず、偶発的に鉢合わせた結果、事故に至るのだ。
スピードとほかの人間の有無がカギ
次にヒグマの事故について考えてみる。2025年8月14日に北海道の知床・羅臼岳登山道で、登山から下山中の2名のうち1名がヒグマに襲われた。被害者は鈴を持っていたものの、山中を非常に速いスピードで下山していたという。加害したのは子連れの母グマだった。
このケースでは、かなり速いスピードで接近した上に、見通しの悪い箇所に差し掛かったところで、アリを食べていたヒグマの親子に遭遇した可能性が高い。クマが人間の接近に気付いたとしても、その場を立ち去る前に人間と遭遇してしまった可能性がある。そして、母グマは子グマを守るために本能的に男性に攻撃したと思われる。
北海道のヒグマ被害では、渓流釣りでの人身被害で致死率が非常に高いというデータもある。サケの密漁者も同様だが、他者に知られないように静かに行動し、人間があまり立ち入らない場所で行動するため、やはりクマと鉢合わせをする危険性が高くなる。
沢登りと呼ばれる、水に浸かりながら渓流を遡行することを愛好する登山者もいる。このように通常の行動から外れ、普段は人間がいない場所をわざわざ選んだりすると、クマとの予期せぬ遭遇を招く危険性がある。

