食堂が校舎と寮の中間地点にあり、3食ともここでとる。寮は男女別の建物になっており、互いに行き来することはできない。

「川崎医大や附属病院などでの体験や実習、医師や医大生の講義・講演を通して、医療の大切さ、厳しさ、やりがいを実感してもらうための総合的な学習の時間を設けています。これをドクターロードと名づけています」

そのなかの体験実習が印象的だったというのが3年生の新谷佳子さんだ。香川県出身で一人っ子。父親は歯科医院を開業している。

「継いでほしい」と言われた歯科医に興味がもてず、テレビドラマの手術シーンで見た医師に憧れてここに入学した。

「医大で現役医師のお話を聞いたり、ラットの解剖を体験したことで、やっぱり医学部に進みたいという気持ちが強まりました」

3年生の今、将来は産婦人科医にという目標も芽生えてきた新谷さんだが、入学当初はあまり切実感はなかった。なかには“私が医者になって帰らなければ地元は無医村になってしまう”という強固な動機をもって入学する生徒もいるという。

もちろん親に勧められるまま入学してくる生徒も珍しくないが、最も多いのは開業医である親の気持ちを何となくくみ取って自然に医師を志すケースだと大村教頭はみている。2年生の松本航輝君もその1人だ。

松本君は地元の千葉で通っていた中高一貫校を退学して同校に進学することを選んだ。父と母、そして2歳上の姉も、全員が同校の卒業生だ。

全校生徒が80人弱のため、部活動では男女一緒に練習する。

「姉は小さいころから医者になりたいと思っていたようですが、僕にはそういう使命感はありませんでした。ただ学校見学に来て、あっ、いいなと思ったんです。医者になりたいというよりは、この学校に入りたいとまず思いました」

松本君が引かれたのは寮生活だった。父親から聞かされていた、寮ならではの同級生や先生との親密な関わりが「面白そう」と感じられたという。

奈良県から来た2年生の柳原彩乃さんも、スクールレターに掲載された寮生活の紹介を見て、医師になりたいというより寮生活に憧れて入学してきた。4歳上の兄が同校出身で、父は歯科医だ。

「寮と学校が隣接しているので、テスト期間中でもわからないところがあれば、すぐに質問できます。先生とのコミュニケーションがとりやすいのがこの学校の良さですね」