2年間で63万人が来場
鎌田たちが手書きの資料をベースに練り上げたのは、おおよそ次のようなビジネスモデルである。
シードルは付加価値の高いリンゴ加工品だが、日本におけるマーケットはほとんどゼロ。国産リンゴを使ったアップルブランデーに至っては、製品そのものが存在しない。そこでJRが地ビール的なシードルを販売し、首都圏などで「アオモリシードル」の認知度を高めていく。シードル人気が盛り上がったら、今度は、地元資本の参入を促し、地域に多数のミニブランドを育成する。そこへ首都圏から観光客を誘致すれば、農家やメーカーだけでなく、JRや地元の観光業者も潤うだろう……。
このようなビジョンに沿って、東北新幹線新青森駅開業と同じ10年12月4日、JR東日本のプロデュースで青森駅前に誕生したのが複合施設の「A-FACTORY」だ。
1番の特徴は、たくさんの客が行き交うオープンスペースと「シードル工房」とが隣り合わせになっていること。1階の真ん中にガラス張りの工房が鎮座し、できあがったシードルは手前のマルシェで地元の野菜や果物とともに販売される。
2階建て、延べ床面積1700平方メートルほどの決して大きくはない施設だが、開業以来、12年末までの2年間で63万人の来場者を集めた。工房もいまではフル稼働で、将来的には、アップルブランデーの製造にも乗り出す予定だ。
集客施設としては成功といっていいだろう。しかし、JRの狙いはその先にある。鎌田がいう。
「A-FACTORYのシードル工房は年産10万本が上限で、これは大きめの地ビール工場クラス。でも、それ以上大きくするつもりはありません。地元の方に参入してほしいからです。『JRのシードルはよく売れるし、東京でも人気があるらしいぞ』となったら、ぜひ私たちの真似をしてほしいんです。青森にはリンゴ農園が連なるアップルロードがありますが、工房がたくさんできれば、フランスみたいに『シードル街道』ができるじゃないですか。そうしたら観光名所ができるじゃないですか。人が動くじゃないですか。大事なことは、JRだけではシードル街道はできないということです」