愛知の高校生が知らぬ間に「騙す側」に

中国系犯罪組織の魔の手は日本人にも伸び始めている。

二〇二五年二月、メーソートで日本人の高校生二人がタイ当局に保護されたことが明るみに出た。未成年の少年がタイとミャンマーの国境地帯で特殊詐欺に加担させられていたという事実は日本社会にも衝撃を与えた。

二人のうち一人は愛知県在住の男子高校生だった。不登校だった高校生は二〇二四年十二月、「バーベキューに行ってくる」と家族に言い残し、自宅を出た。インターネットで「技能を伸ばせる仕事がある」と誘われ、パスポートを用意した上で、空路でタイに入国。かけ子などの勧誘を行う「リクルーター」の引率でミャンマーへ連れて行かれた。

高校生は父親に助けを求めるメッセージとともに、自分の居場所を知らせる位置情報を密かに送っていた。高校生が保護された後、日本の同僚記者がつかんだ情報を頼りに現地へ向かうと、カイン州の街ミャワディから南に七十キロほど離れた「凱旋園区」と呼ばれる場所に行き着いた。

国境を流れる小さな川を挟み、対岸にカイン州を望むタイ・ポップラ郡ワーレー地区。位置情報近くの国境ゲートへ足を運ぶと、地元住民らが川にかかった小さな木の橋を渡り、自由に国境を越えて行き来していた。

非公式の国境ポイントである。橋のたもとでは自動小銃を構えた三人のタイ軍兵士が目を光らせていた。外国人の往来は認められていないが、ダメ元で「ミャンマー側でお土産を買って帰りたい。すぐに戻るから渡らせてほしい」と交渉すると、カメラやスマートフォンをタイ側へ置いていくなら、という条件で許された。

数メートルの橋の向こうは犯罪拠点

わずか数メートルの小さな橋を渡ると、ミャンマー側には、DKBAの詰め所があり、この一帯を実効支配しているのがBGFではなく、DKBAであることがわかった。

国境にかかる橋のミャンマー側にあるDKBAの詰め所
筆者撮影
国境にかかる橋のミャンマー側にあるDKBAの詰め所(2025年2月)

国境ポイントの目と鼻の先には、高い塀と有刺鉄線で囲まれたリゾート風の建物群があった。建物の壁には中国の春節(旧正月)の飾り付けとみられる赤い灯籠や対聯ついれんがあり、「福」や順風満帆を意味する「一帆風順」の文字が読み取れた。

オレンジの屋根の上には、イーロン・マスク率いる米航空宇宙企業、スペースXが提供する衛星インターネットサービス「スターリンク」の受信機とみられる機械が多数備え付けられていた。

国境地帯は通信環境が不安定で、特殊詐欺にスマートフォンやパソコンを多用する犯罪組織は独自のインターネット環境を確保しているとされ、凱旋園区と呼ばれるこの一帯も詐欺拠点であることは一目瞭然だった。

路地の奥に入り口らしき場所があり、こっそりと持ち込んだスマートフォンを向けると、近くにいた男たちが何やら叫び、こちらを指さしているのが見えた。身の危険を感じ、きびすを返した。