削減効果は医療費全体から見て限定的

さて、このように特に働き盛りの世代が生活できなくなるかもしれないほどの重い自己負担額を強いることで、医療費をどのくらい削減できるのでしょうか。

厚生労働省の試算をもとにした分析では、高額療養費の自己負担額引き上げによる給付費削減効果は2年間で約2450億円とされています(※2)。ところが、この削減効果のうち約1070億円(44%)は「受診抑制による効果」と見込まれているのです。つまり、患者さんが「お金がかかるから医者に行くのをやめよう」と治療を控えることで生まれる削減効果も含まれているということ。

一方、令和4年度の国民医療費は約46.7兆円です(※3)。2年分の削減効果2450億円を年換算すると約1225億円で、単年の国民医療費に対して約0.26%にとどまります。国民医療費全体から見れば、たった0.26%という限定的な削減効果です。

こんな小さな削減効果のために、働き盛りの重症患者に治療を諦めさせかねない施策を優先的に行うべきでしょうか。私はそうは思いません。

※2 全国保険医団体連合会「【高額療養費の限度額引き上げ】制度利用者8割が値上げ 社会保険料の軽減効果は1人年1400円 受診抑制1070億円見込む
※3 厚生労働省「令和4年度 国民医療費の概況

まずは医療費の適正化に取り組むべき

本来は何よりも先に医療費の適正化に取り組むべきでしょう。

一つは、風邪などの軽微な病気や慢性疾患などの診療において医療費の無駄をなくすこと。例えば、なんとなく不安だからと同時期に同じ症状で2カ所のクリニックを受診し、同じ薬が出たから余ったというケースはよくあります。しかし、こうした「重複受診」や「重複処方」が医療費を高騰させています。他にも飲まない薬をもらい続ける、医療証でタダだから塗り薬を大量にもらう、なども同じです。

じつはマイナンバーカードと保険証が一体化した「マイナ保険証」を使えば、こうした重複受診や重複処方を防ぎ、無駄な医療費を減らせる可能性があります。身分を偽った保険証の使用を防ぐ効果もあり、マイナ保険証の使用が拡がってほしいと思っています。

もう一つは「防衛的医療」を減らすことです。救急医療や超高齢者の終末期医療においては、訴訟リスクを回避するために、過剰な検査や治療を行う「防衛的医療」が行われています。これを減らすことができれば、医療費を大幅に削減することができます。ただし、患者さんの権利をしっかり守ることのできるガイドライン、それに沿って治療の差し控えや中止をした医療者を守ることができる法制度を整えることが必要でしょう(※4)

※4 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン