「がん治療」か「家計」か究極の選択
30〜50代の働き盛りの方のなかには「自分は高額療養費制度が必要になることはない」「がん治療なんて私には関係ない」と考える方も少なくないかもしれません。
でも、実際にはそうした年齢で、何らかのがんになる可能性は決して低くはないのです。すると子どもの教育費や住宅ローンなどを抱え、仕事も家庭も一番忙しい時期に、がんと向き合わなければならなくなります。
特に女性特有の「乳がん」や「子宮頸がん」は、まさに働き盛り・子育て世代で多く発症するがんです。乳がんは、30代から増え始めて40代後半でもっとも多く発症します。子宮頸がんは、20代後半から30代にかけて増える傾向にあります。
具体的に起こり得るケースを想像してみましょう。「働き盛りの親ががんにかかり、適切な治療を受ければ助かる可能性はあるが、仕事が続けられるかどうかも不透明ななか、高額療養費の自己負担額を払うと生活できなくなるため、子どもや家計のために諦めざるを得ない」といった最悪な事態も起こり得るのです。
資産は考慮されず年収だけで決まる負担
ここで、もう一つ大きな問題を指摘したいと思います。高額療養費制度における限度額は、前述の通り「年収」のみで決まり、原則として「資産」は考慮されません。つまり、特に高齢者において、預貯金や不動産、株式、投資信託のような資産をたくさん持っていても、年金などの収入が基準以下なら低い上限が適用されるのです。
例えば、今現在、同じ治療を受けても、70歳以上の住民税非課税世帯(低所得者I)だと月1万5000円で、今回も値上げは700円だけです(外来だけなら値上げはなく8000円のまま)。一方、年収約1160万円以上の区分だと、前述の通り25万円以上の負担になります。すでに負担額は15倍以上で、この差は今回の改定でさらに大きくなる見込みです。
当然、誰もが年を取って働けなくなる日はきますし、年齢とともに病気になる確率は上がりますから、高齢者を手厚くカバーすることも必要です。ただし、資産がある人と資産がない人を同等に扱う制度設計には問題があります。
本来なら「応能負担」の原則に従って、支払い能力に応じて負担額を決めるべきですよね。でも、現実には年収だけを基準にしているため、実際の支払い能力と負担額が必ずしも一致しない状況が生じているのです。資産を考慮した負担設計について、技術的な課題も含めて検討が必要だと思います。

