国民年金だけで暮らすためのアドバイス
さて、本題に戻ろう。Aさんは将来、国民年金だけで生活できるだろうか。
月々の支出が6万円から7万円、年金収入の見込額が約7万円。数字だけ見れば、ほぼ収支トントンというところだ。住民税や国民健康保険料は年金収入が低ければ軽減されるし、Aさんの場合は住居費がほぼかからない(固定資産税などは必要だが)。年金だけで生活費をまかなうのは、無理とは言い切れないだろう。
ただし、不安要素も多い。家はいずれ修繕が必要になるだろうし、年令を重ねれば医療費がかさむときもあるだろう。また、最大の敵はインフレだ。最近のようにハイペースで物価上昇が続けば、今の支出水準を維持できなくなる可能性は高い。手持ちの金融資産で、こうした状況の変化に対応できるのか。
この不安に対して、筆者はAさんに2つのアドバイスをした。
【①月3万円の貯蓄をNISAの積み立てに】
Aさんへの一つ目のアドバイスは、つきなみだが、毎月の貯蓄をNISA(少額投資非課税制度)での積立投資に変えることだ。60歳以降も現在の勤務先で働き続けられる見通しがあるなら、働いている間はNISAを活用して投資信託の積み立てを続ける。NISAには「つみたて投資枠」と「成長投資枠」という2つの非課税投資枠があるが、投資信託の積み立てはどちらでも可能だ。少額でも長く続ければ、資産形成とインフレ対策の両方に効果がある。
幸い、Aさんはすでに株式投資の経験があり、リスクを取って運用することへの抵抗感がほとんどない。この点も、年金生活を乗り切るうえでの強みになる。低金利の預貯金だけでは、物価上昇に資産価値が目減りしていく一方だからだ。
具体的には、働けるうちに金融資産を400万円から500万円、できれば800万円程度まで積み上げておくと、より安心感が増す。月3万円の積み立てでも、10年続ければ元本だけで360万円。運用益が加われば、さらに上積みが期待できる。
【②家は子どもに残さず、自分のために使い切る】
もし将来、蓄えが底をついたり、介護施設への入居金が必要になったりする場合には、Aさんの最大の資産である持ち家が切り札となる。彼女の自宅は生活インフラの整った地域にあり、土地の流動性は高めだ。自宅を売却してまとまった資金を得ることも可能だが、リバースモーゲージという方法もある。
リバースモーゲージとは、自宅を担保にして金融機関から生活資金を借り入れ、契約者が亡くなった時点で自宅を売却して一括返済する仕組みだ。多くの場合、契約者の存命中は毎月の利息のみを返済する。住み慣れた家に住み続けながら、その資産価値を現金化できるのだ。地方の場合、リバースモーゲージを取り扱う金融機関は限られているが、Aさんの暮らす地域では利用が可能だった。
ただし、リバースモーゲージにも注意点はある。担保評価額の範囲内でしか借りられないし、そもそも売却しても買い手が付きにくい不動産は契約を断られる可能性があるのだ。地方の物件の場合、担保評価額が低くなりやすいため、すべての人に勧められる方法ではない。しかしAさんのように自宅を残す必要がない人にとっては、老後資金の不安を和らげる有力な選択肢になる。普段の生活は年金と金融資産の取り崩しで回し、いざというときは自宅を現金に換えて乗り切る。この戦略があれば、金融資産が少なめでも過度に怯える必要はないだろう。
