グローバルレベルで納得される賃金制度とは

社員が共鳴した経営理念とは「先端・信頼の医薬で世界の人々の健康に貢献する」というものだ。製薬業界は外資を巻き込んだ厳しい競争環境の中で、新薬の研究開発でしのぎを削るのか、あるいは特定の分野に集中して生き残りを図るのか。さらにもう一つは新薬の特許切れに伴う後発医薬品の開発・販売事業へのシフトという大きく分けて3つあるビジネスモデルのいずれかの選択を迫られていた。

新生アステラス製薬が選択したのは「周辺事業をしない。医療用医薬品に特化する」(中島部長)という“製薬の王道”だった。

当初は具体的目標として売上高世界10位を目指す「グローバル10」を掲げたが、今はそれを集約した「企業価値の持続的向上」を使命としている。

企業価値には人材価値も含まれる。海外での売り上げを拡大し、グローバル市場で覇を成すには、いうまでもなく従来以上にイノベーションを生み出す、高いレベルの人材が要求される。社員に対しても新たな人材像のキーワードとして、(1)スピード、(2)変革力、(3)専門力、(4)ネットワーク力――の4つを掲げた。

「ビジネス領域が一気にグローバルになり、ワールドワイドな視点でマーケティング、研究開発、製造、販売を進めなければならない。研究・開発・技術本部をはじめ人事、広報、知的財産部などあらゆる部門に携わる人にそれが求められています」(中島部長)

当然、社員を動かす人事制度も日本の雇用環境に特化した年功序列的人事・賃金制度ではなく、世界を意識したグローバルな人事制度が求められる。ただし、異なる2社の制度を統一するだけではなく、グローバルレベルの賃金制度まで導入するのは容易ではない。これまで合併しても長らく賃金制度に手をつけずに放置していた企業も少なくない。しかし、同社は統合した4月、欧米型の「職務給」に一本化することを宣言し、10月1日から本格的に移行した。

職務給とは、年齢や能力に関係なく本人が従事する職務や役割に着目し、同一の役割であれば給与も同じとする制度だ。ポスト(椅子)で給与が決定し、当然ながら職務が変われば降格・降給も発生する。じつは2社も旧制度に職務給的仕組みを導入していたが、同時に年功序列的要素の強い資格給制度も温存させていた。

新制度導入に当たっては「両社の制度を足して2で割っても誰も納得しないだろう。納得してもらうにはどういう成果が求められるどんな仕事をしているかで判断するしかない」(中島部長)ということで職務給に一本化した。職務給は毎年の評価によって職務給ランクが変動し、減給・降格が発生する半面、優秀な人材を高位の役職に抜擢できるというメリットもある。普通の企業では優秀な社員でもせいぜい1段階上の飛び級程度だが、同社では一気に4ランク上に昇格するケースもある。