こうした基盤の上に、同社はグローバル化に向けた新たな地歩を固めつつある。現在、グローバル化の第二ステージとして、複数の領域で付加価値の高い製品を提供することにより競争優位を確保する「グローバル・カテゴリー・リーダー」の実現を目指している。その一つが09年1月に、開発部門のグローバル本社機能を米国のシカゴに移したことだ。ここが日本、欧州、米国の三極の開発権限を握り、責任者には米国人が就任している。

日系のグローバル企業では日本本社が最終的に指揮命令権を持つのが普通であるが、同社のように一挙に権限を移す企業は珍しい。しかも、異動などの人事権だけではなく、前述したようにグローバル拠点共通の職務給に基づく賃金制度を09年1月に構築している。

「幸い、欧米ともに職務給でした。欧州と日本の職務グレードは比較的共通していましたが、米国では細かくグレードが分かれていたために、米国に依頼して部長給以上については同じグレードの体系に変えてもらいました。その結果、欧州、日本、米国共通の職務給制度で運用しているため、一定以上のランクの社員はどこに異動しても、共通の評価軸で報酬が決まることになります」(中島部長)

じつは人事・賃金制度を含めた人事管理をここまで統一している日系グローバル企業は少ない。欧米系のグローバル企業は、グローバル本社が経営の絶対的権限を有し、人事・報酬政策を集中的に管理している。製造業などいち早くグローバル市場に進出した日系企業も過去に集中管理しようとしたこともあったが、賃金制度を含めて現地に合わないということで断念し、結局、現地の裁量に任せている企業も多い。

しかし、現地をコントロールできないことの“ひずみ”は確実に存在する。アステラス製薬の場合は「開発部門は米国で集中管理し、リージョンごとのマーケットについてはそれぞれの極が権限を持って遂行する」(中島部長)という戦略をとる。

グローバル化は、人事戦略面では企業の合併作業に似ている。異なる企業文化同士の結合と同様に、グローバル拠点を築くことは、異なる文化・民族の従業員をまとめ上げて戦力化することだからである。もしかするとグローバルマネジメントは合併以上に難しいかもしれない。しかし、避けては通れない道に挑戦し続けるアステラス製薬の戦略は企業のグローバル化の一つのモデルといえるかもしれない。