昨今、経済のグローバル化、すなわち、生産ネットワークやサプライチェーンのグローバル化や国際的な賃金比較や円高の影響を受けて、日本企業による対外直接投資が増大してきた。その影響を受けて、対外直接投資の成果としての海外からの直接投資収益・出資所得が着実に増加している。その結果、それまで貿易収支黒字が経常収支黒字の大半を占めていたにもかかわらず、05年には所得収支黒字が貿易収支黒字を逆転し、経常収支黒字の大半を占めるようになった。さらには、11年以降、東日本大震災の影響も受けて貿易収支が赤字に転じたのちには、所得収支黒字によって経常収支黒字を維持している状況が続いている。すなわち、貿易収支が赤字である一方で、所得収支が黒字であることから、海外で稼得した所得を含むGNIが、国内で生産されたGDPを上回っている。日本人全体の所得が成長することに重きを置けば、現状の日本経済はそれほど問題とならないかもしれない。

しかし、国内で生産される総額、すなわち、国内で生産活動を営んでいる企業や労働者を重視すると、GDPが重要となる。賃金の国際比較や円高のために日本企業が対外直接投資を行うことが経済合理的であると同様に、日本の労働者も海外に移り住んで、海外で働くという選択肢をとることができれば問題は生じないのであろう。しかし、実際にはそれができないために、GDPの成長率に注意を向けざるをえなくなるのであろう。最近、グローバル人材の育成が強調されているが、それは、GDPの成長率に限界があることを反映しているのかもしれない。

次に、経済の供給サイドから経済成長に寄与する要素を説明しよう。経済成長は、企業が生産を行う際に必要とする生産要素がどれほど増大するかに依存する。生産要素には、(1)労働力、(2)(インフラストラクチャなどの)社会資本、(3)(工場・設備などの)物的資本、(4)(労働者の教育水準を意味する)人的資本、そして、(5)生産技術が含まれる。例えば、工作機械(産業ロボット)を使って自動車を生産する自動車メーカーは、生産のための生産要素として工作機械【(3)物的資本】とそれを操作するオペレーター【(1)労働力】が重要である。もちろん、電力【(2)社会資本】がなければ工作機械は動かない。また、工作機械は、自動車を組み立てるソフト【(5)生産技術】とそれを使いこなすことのできる労働者の能力【(4)人的資本】が欠かせない。これらを増大させていけば、この自動車メーカーは自動車の生産を増大させていくことができる。