料理人には「演技力」が求められる

ただし、最後の〈もう一歩〉はやはり人の力である。

食事の場が華やぐ、共感と温度感をともなった雰囲気づくりは、仕組みではなく、一人ひとりの感受性によって生まれる。コミュニケーション力とは、単に話がうまいということではない。相手の表情の裏にある感情を汲み取り、先回りして行動する力。適切なタイミングで言葉を投げかける余裕。場に流れる空気のリズムを読む感覚。

こうした力は、料理の現場だけでなく、あらゆる仕事においても極めて重要だ。共感と気配りに裏打ちされたやりとりには、ある種の〈演技力〉すら求められる。料理人に向いているのは、実は役者のような人間かもしれない――そんなふうに思うことがある。