国際政治学者であり、わが国保守論壇の代表格。第1次安倍晋三内閣の崩壊後、とくにリベラルに傾く最近3年間の民主党政権下では、『日本の悲劇』などの著作を通じ、国家の行く末に強く警鐘を鳴らしてきた。
だが、昨年末に第2次安倍内閣が発足したことで、日本を取り巻く空気は劇的に変わった。大胆な金融政策と財政出動で景気を刺激し、矢継ぎ早の首脳外交で安保環境を立て直す。鬼気迫るようなリーダーシップで走り出した安倍首相を著者は全面的に支持し、エールを送る。
本書では、日本が直面する財政、外交、リーダーシップの3つの危機について、独自の深い歴史解釈に基づき解決の方向を示唆している。たとえば、異論が根強いなかで安倍政権が本格参加に道を開いたTPP交渉については、貿易自由化よりもブロック化の側面に着目し、米国中心の枠組みに残るか、中国寄りにスタンスを変えるかの選択であり、むしろ安保問題ととらえるべきだと看破する。
実は小泉純一郎内閣の官房副長官時代から「真の保守政治家である」と高く評価し、リーダーとしての安倍氏に強い期待を寄せてきた。
「若いころから北朝鮮による日本人拉致問題や教育、憲法、歴史認識といった、他の政治家が尻込みしがちな問題に取り組んできたのが安倍さんです。火の粉をかぶるとか孤立することをいとわず、国家という基軸を守るためにやるべきことはやる。英国には『保守とは絶えざる大改革に挑める政治家だ』という言葉がありますが、安倍さんにもその資質があると思います」
ただ、第1次内閣では改革断行の姿勢が与党を含む各方面からの反発を招き、四面楚歌の状態で結局は政権の座を離れざるをえなかった。今回は、当時を知る世耕弘成官房副長官ら政権スタッフの巧みな手綱さばきにより、背後に敵をつくらないしたたかさも示し始めた。
「真の保守政治家は、たとえ退陣しても2度、3度と政権を担い大仕事に挑みます。安倍さんもそういう政治家です。今回、政権復帰で日本の空気が明らかに変わりましたが、第2次世界大戦直前にウインストン・チャーチルが海軍大臣に復帰したとき、『Winston is back』という1本の電文で英国海軍が奮い立った故事を思い出します」
その後、首相となったチャーチルは大戦を勝利に導き英国を救った。安倍首相はチャーチルになれるのか。著者は「斜に構えている」場合ではない、と読者に呼びかける。後押しをするのは、国民だからである。