“フジ10時間会見”の最大の問題
さて、以上の5つのポイントを基準に2025年の記者会見を振り返ると、まずワースト3のひとつとして挙げられるのが、会見時間が10時間を超えたことでも話題となったフジテレビの会見です。
この記者会見にはさまざまな問題がありますが、専門家として指摘すべき最大の問題点は、会見冒頭でトップが辞任を発表してしまったことです。
会見の冒頭、フジテレビ社長の港浩一氏(当時)、フジ・メディア・ホールディングス代表取締役会長 嘉納修治氏(当時)の引責辞任が発表されました。一見すると、辞任することで一連の問題の責任を取っているように見えますが、専門家からすればむしろまったく責任を果たせていません。
「今日で辞めます」と宣言した人間が、その後の会見で今後の再発防止策や真相究明についてなにを語っても、説得力を持ち得ませんし、無責任に見えます。さらにいえば、冒頭での辞任発表をしたことで、本来なら前面に打ち出すべきだった「謝罪」というキーメッセージが薄まってしまいます。
会見では辞任に続き、後継として清水賢治氏の新社長就任を発表し、清水氏は今後の方針について会見で表明しました。ただ本来、経営責任というのは、問題を収束させ、再発防止の道筋をつけるまでがセットです。謝罪は謝罪、新体制は新体制と、フェーズを分けるべきでした。
これは2023年の中古車販売大手「ビッグモーター」の会見と同じ過ちを繰り返してしまっています。あの会見でも、社長が冒頭で辞任し、新社長にバトンタッチしたことで責任逃れの印象を与えています。フジテレビの会見を見て「過去の他社の失敗から何も学んでいないのだな」と感じずにはいられませんでした。
CM引き下げを加速させた「経営陣の言動」
会見は経営責任が追及される場のはずですが、フジテレビの上層部は記者からの質問に対し「第三者委員会に委ねます」と繰り返していたのも問題です。
もちろん、会見の場で言えることと言えないことがあることはわかりますが、出せる情報はきちんと出したうえで経営陣と第三者委員会の役割を明確にすべきでした。しかも、経緯報告を行ったのは壇上にずらりと並んだ社長、役員ではなく、なぜか司会の広報部長が行っていました。こうした振る舞いは、いずれも経営陣が責任から逃げている印象を与えました。
そうした責任逃れの姿勢が世間に対して伝わったことと、この会見の直後からフジテレビのCM引き上げがさらに加速したことは間違いなく影響しています。企業の経営者たちはあの会見を見て「同じ経営者としてあり得ない」と判断したのではないでしょうか。

