「静かな傍観者」からの卒業
またロイター通信は、「日本が『台湾の封印を破った』という表現を使い、外交交渉をいくら試みても、この事実は変わらない」とまで表現した。日本企業が中国で経済的な巻き添え被害を受ける可能性にも言及した。
そしてTIME誌はこう総括する。
「高市氏は、台湾に関して日本が慎重に築いてきた戦略的曖昧さの姿勢を覆し、暗黙の了解を明文化。本土との再統一を主張する中国のレッドラインを越えた。この発言の余波は、依然として衝撃波を送り続けている」
海外で重く受け止められているのは、日本の言葉が、もはや象徴ではなく、地域の動向を変えうる「シグナル」になったからだ。日本は今、世界から「静かな傍観者」ではなく、情勢を動かしうる当事者として見られ始めている。その現実が、これほどの注目と緊張を生んでいるのである。
安定した大国イメージの崩壊
暗黙の了解を明文化し、世界の台湾問題を見る目を激変させる日本――この変化は、英語圏メディアが長年抱いてきた日本像とは、あまりにも異なる。
1990年代初頭にニューヨークへ移り住んだ筆者にとって、アメリカの報道に映る日本は、常に「静かで、予測可能で、安定した国」だった。政治的な主張が前面に出ることは少なく、大きな混乱も起こさない。良くも悪くも、国際ニュースの主役になることはまれだった。
確かに日本では、過去30年間で首相が13回も交代している。先進国の中では異例の多さだ。しかし海外では、「それでも日本は平常運転。政権党が変わらない限り、大きな方向転換は起きない」という見方が定着していた。だからこそ、日本の政治がアメリカで数週間にわたって報じ続けられること自体、極めて珍しかったのである。
この「関心の薄さ」は、日本政治への無関心とも言えるが、裏を返せば、不安定な世界情勢の中で「日本だけは安定した大国」というイメージが、長年にわたり信頼の土台になってきたとも言える。
ところが今回は、明らかに報道の温度が違う。主要メディアは慎重に言葉を選びつつも、緊張の高まりを隠していない。例えばロイター通信は「今回の問題が短期的にクールダウンできたとしても、地政学的にヒートアップしているのを覆い隠すことはできない」と懸念を表明している。
さらにロイターは、中国の空母が日本近海で集中的な航空作戦を展開したとの報道で、「東アジアの隣国同士が外交的応酬を続ける中、紛争が激化し、関係はさらに緊張を深めている」と、危機感を前面に押し出した。
曖昧でも安定していたかつての日本のイメージは崩れ去り、緊張をはらんだ「揺れ動く国」に変貌しつつあることが、こうした記事から感じ取れる。

