突進してきたヒグマに噛みつかれ…
翌日の7月3日。オマール氏は昨日と同じ地域を訪れ、ダムの近くの道路脇に子グマ2頭の姿を見つけ、バイクを停めた。
と、オマール氏はここで何を思ったか、ヒグマに餌付けを始めた。ヒグマに餌を与え、もっと接近して動画や写真を撮影すれば、より大きな反響が期待できる。そう思ったのかもしれない。
「彼はバイクから降りてクマに食べ物を差し出した」という証言もあった模様だ。
皮肉なことに、バイクを停めた場所の横には、ヒグマに餌付けしないよう警告する看板が設置されていたという。
オマール氏が餌を与えた子グマは、おとなしく食べていたようだ。
だがこの時、母グマもまた近くに身を潜めていたのだった。
母グマが突如現れオマール氏を襲うまで、ものの30秒もかからなかった。急に草むらから突進してきたヒグマが彼に噛みつき、引きずり倒すと、そのまま渓谷の下へ引きずりこんだ。
数十メートル下の渓谷に山岳救助隊が到着した時、オマール氏はすでに亡くなっていたという。
遺体とともに発見されたオマール氏のスマートフォンからは、死の直前に撮影された動画が見つかった。動画には、ヒグマがオマール氏に向かってくる様子が撮影されていた。
「死の直前」の動画がTikTokに流出
動画の中でオマール氏は「ここにクマがいる! なんて美しいんだ! こっちに来てるよ」と言い、興奮した様子だったとされる。
この動画がTikTok上に流出し、かなりの再生回数を稼いだとされるが、その反響をオマール氏が見ることはなかった(動画は現在は削除されている)。
自然保護に関わるレンジャーの団体「ヨーロッパレンジャー連盟」のサイトによると、事件が発生した「トランスファガラシャン国道」周辺には、野生のヒグマが大量に集まっているという。
山の中を通っており、監視の目が届きにくく、しかもヨーロッパ各地から多くの外国人観光客が訪れる。そのため、この道路沿いでは迷惑観光客によるヒグマへの餌付けが日常的に行われていた模様だ。
つまり、オマール氏が発見したヒグマは、他の迷惑観光客の餌付けによって、人間に近づくことを恐れなくなっていた可能性が高いと推測される。そういう意味ではオマール氏も、他の迷惑観光客のルール違反の被害者とも言えるが、オマール氏自身が率先して餌付けを行っていた可能性が高いため、まさに自業自得としか言えない面があるだろう。

