間違えた瞬間、脳は成長する

「失敗した……」と思った瞬間、あなたの脳の中では何が起きているのでしょうか?

堀田秀吾『最先端研究で分かった頭のいい人がやっている 言語化の習慣』(朝日新聞出版)
堀田秀吾『最先端研究で分かった頭のいい人がやっている 言語化の習慣』(朝日新聞出版)

実は、失敗はただのマイナスではありません。前節で「失敗しても大丈夫」と思えるようになるポイントを紹介しましたが、脳科学の視点から見ても、失敗はむしろ脳が成長する絶好のチャンスなのです。

コロンビア大学のメトカーフの研究は、誤りが学習の触媒になることを明らかにしました。自分で考えて出した誤答は、その後に正答を学んだときに想起を助ける「手がかり」となります。

さらに、自信を持って間違えた場合には、「ハイパーコレクション効果」と呼ばれる現象が起こります。これは、強く意識された誤りの訂正が特に深く記憶に残るもので、誤りの認識と修正の組み合わせが長期的な知識の定着を促します。

この「誤り→修正」のプロセスが脳活動レベルでどう表れるのかを示したのが、ミシガン州立大学のモーザーらの研究です。この研究では、課題中に間違えたときの脳波――特に「エラー陽性電位(Pe:error positivity)」と呼ばれる脳波――に注目し、その活動が強い人ほど、後の学習成績が良くなる傾向があることを明らかにしました。

「うわ、間違えた!」と気づいたときに脳が敏感に反応する人ほど、その後の同種の課題でパフォーマンスが向上していました。つまり、失敗をきちんと認識し、注意を向けることが脳の学習回路を動かすのです。

女性が頭を悩ませる
写真=iStock.com/ismagilov
※写真はイメージです

間違いを成功につなげる最短ルート

こうした知見は、前節で紹介した「成長マインドセット」――すなわち、「能力は努力や工夫で伸びる」という考え方――とも相性がよいと言えます。失敗を限界の証拠ではなく、次への資源とみなす姿勢が、間違いからの学びを最大化します。

メトカーフのいう「誤答の手がかり効果」と、モーザーの示した「脳のエラー反応」は、次のような失敗克服サイクルの中で相乗効果を発揮します。間違えた瞬間の脳は、まさに学習に最適化された状態になっているからです。

①失敗を即座にふりかえる

間違えたらすぐに「何を、なぜ間違えたのか」を簡単にメモします。記憶が鮮明なうちに行うことがポイントです。

②修正ポイントを明確にする

正しい答えや手順を確認し、「同じ状況になったらどうするか」を具体的に想定します。

③繰り返し試す

同じタイプの課題や場面に短期間で再挑戦することで、修正版の知識を定着させます。

失敗を単なる減点や挫折とするのではなく、「脳が成長する瞬間」として捉え直す。この視点を持つだけで、挑戦へのハードルは下がり、自己信頼は揺らぎにくくなります。

このサイクルを回し続けることこそが、長期的な成長への最短ルートなのです。

[言語化のよい習慣]
間違えた直後に、「次に同じ状況になったらどうするか」をことばにする。
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